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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-8



  第137系統
  ローゼンハイマー家章

  ローゼンハイム
  「真紅の薔薇園」

Ein Ritter 1-8
「導かれし黒蝶編−反逆の薔薇騎士−」

クロークに縫い取られた 「真紅の薔薇園」。
 
「統べるもの、ローゼンハイマーの家章ですか」

国内外の貴族子弟を援助して宮廷にあがる上位騎士を多数輩出。
海運業を母体とした屈指の名門であり、その名がセラフィンのような子供の口から
発せられても、何ら不思議はなかった。

アグネス(愛称は"おちびちゃん"、または"鉄腕")ローゼンハイマー。

「今次の遠征にも正騎士や有望な見習い騎士を多く送り込んでいるため、
 今期の家章を獲得したのも、おそらく彼女だろう。
 いくら戦役によって国内の人材が空洞化しているといっても・・・」

剣を交えたくない相手には違いなかった。
ルチアは薄紅色のクロークを裏返してセラフィンに巻きつけると、足早に市場を後にする。
ただ、頼るべき百合の城が失われた噂の信憑性を、何度も心の中で繰り返していた。


市場町を去るふたつの影と真逆に、ひとり、中央付近に陣取る 「鉄獅子」 「氷葬」
両騎士団の駐屯地へ徒歩する女騎士の姿があった。
"鉄腕"・・・ その二つ名が示す通り、武器を持たない空手からの組み技を編み出す
異彩を放つ騎士だった。

すでに北面から行軍する百合城誅滅隊エーミールの騎士団を葬ったアグネスは、
直掩の手も無く、ただ身体の内の熱い火照りだけを源に歩を進める。

エーミール・ヴァレンタイン
「蛇十字章」 の家章を持つレムシャイトを後ろ盾に宮廷へ進んだ、彼女の幼馴染だった。
恋仲にまで育んだ妄想は、いま終止符が打たれた。

(セスとの約束は果たした。ここから先は特別サービスだ..
 黒蝶の生き残りを援護するため、ロレンティウスの首を落としてやるぜ!)

クロークと剣を処分したアグネスには、幸いにも身分を証明するものは残されていなかった。
王国領内で緊張の緩む騎士団に紛れ込み、酔っぱらいの余興程度に
ロレンティウスを罵ってやるだけでよかった。
王都の将軍という重職にありながら、彼はこのような遊びを好む傾向があるようだった。
ただ、結末はやはり、太刀打ちの出来る技量差ではありえなかった。

「い、いくらなんでもこれは・・・」

「ああ・・・ 士官反逆罪でコレもんだろ」

どよめく騎士たちをよそに、ロレンティウスは伏臥するアグネスを見下ろしている。
自分の命さえ厭わずに届かせたカスリ傷程度の一太刀には、
思いのほか愉しんでいるようにさえ、周囲の目には感じられた。

「こいつも奴隷籠へ収納しておけ。戦利品だ」

ロレンティウスの言葉が無かったなら、即刻処刑されていたであろう顛末に、
周囲のざわめきは一層高まっていく。
やがて人垣を割ってやって来た魔女将軍が、ロレンティウスに警告を放った。

「気に入らんな。まるで足止めといわんばかりの特攻ではないか?
 ミュンスター派の国外流出の動きもある。本隊の動きとは別に、急ぎ斥候を放つべきだ」

側に従う士官に耳打ちする魔女を一瞥したロレンティウスは、再びわずかに血を滲ませた
腕のカスリ傷に目を落とし、低い声で言う。

「先に医務官をここへ呼べ。やべえ.. 血が出て来た(ほんのちょっぴり)」

「そんなものは後で構わん。休憩している騎馬隊へ、至急伝令にゆくのだ」

「医者だ。医者を先に連れてこい」

あからさまに不快感を示した魔女と、露骨に対抗するロレンティウス。
側近の士官はふたりの顔色をうかがうばかりである。

「痛ぇーんだよ!早くしろ!」

最後はロレンティウスの発した怒声に腰を抜かさんばかりに、士官は場を離れ去った。
間髪を入れずに魔女マルガレータが不満の数々をぶちまける。

「今しがたの顛末は報告書に記載させてもらう。
 貴様も王都の将軍を受けたのならば、個人の都合は二の次にしてもらいたい!」

その他2、3の思いつきを吐き捨てたのち、魔女は踵を返して立ち去ろうとすると、
素早く回り込んだロレンティウスが薄ら笑いを浮かべている。
魔女の眼前には、わずかなカスリ傷をつけた右腕が退路を塞いでいた。

「舐めろ・・・」

ロレンティウスの言葉に一瞬、ありえない表情を見せた魔女だったが、
努めて平静を装い、馬の手入れに精を出す男を呼ばわるなり、
無言のまま顎をロレンティウスのほうへ向けて立ち去った。

何を命令されたのか理解出来なかった馬丁の男は不安そうに肩を竦ませていたが、
当のロレンティウスは魔女の切り返しを満足げに、笑い飛ばすばかりだった。

  • 2012.11.09 Friday
  • 00:00

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