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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-7



  第288系統 南位上将軍元帥
  カイザーブルクシュタイン家章

  カイザーブルクシュタイン
  「不落の城塞」

黒蝶城攻略戦総括

早朝に軍令を待たず突入した小隊は、城内に残された僅かな武装を解除するも全滅。
遅参したラファエラ、ロレンティウス両名が"蝶"のミュンスター誅滅を果たす。

落城前に城主ゲオルグより見習い騎士ルチアへ叙任継承が行われたが、
正当継承者カタリナの戦没により、継承剣べヴァイスを遺失。
ゲオルグの死去により、任命権は王宮に帰した。

Ein Ritter 1-7
「導かれし黒蝶編−ふたりおち−」

血族"百合花"の開城を知らないルチアとセラフィンは、
助力を求めて徒歩で北を目指していた。

一方で、戦地より帰還途中だった 「氷葬」 と王命を果たした 「鉄獅子」 両騎士団は、
王都凱旋を謳い、これもまた北へ行軍指揮を執る。
その途上にあって、"魔女"マルガレータはすこぶる苛立っていた。

「ロレンティウスは何をしている!我が隊は前線から無休で作戦に参加しているのだ。
 行軍の舵取りは、奴が申し出て当然ではないのか?」

「それが.. ロレンティウス将軍も徹夜の単騎強行で参加したとのことで、
 現在は捕虜を乗せた馬車の中にて泥のように眠っておられます」

「捕虜馬車だと?何故、歩かせない!」

「徒歩行軍すら不可能な負傷者だそうで・・・」

「そんなものを持ち帰って、どうしようというのだ奴は!」

吐き捨てる魔女将軍と同調するように、付き従う副官が不平を口にする。

「捕虜運搬のみならまだしも将軍まで同乗されているため、馬車引きも相当に気を遣います。
 実際、ああいう人物とどのように接してよいものか、皆も困惑しております」

「軍は王国領内にある。休息は多めに取らせるゆえ、肩の力を抜いて任務を遂行しろ」

副官に先導を譲り、魔女は後方へ下がる。

(人間の不可解な行動を見透かせない最大の理由は、
 己が複雑でありたいと願う防衛機制によるものだ。
 行動や結果が不可解であるほど、動機との相関関係は単純化するのだよ・・・)

魔女は乗り心地のよい捕虜馬車を睨みつつ、軍のはるか後方に消えた。


蚤の市−ジプシーキャンプ−

黒蝶の城から北北東へ徒歩半日の距離に、ルチアとセラフィンの姿があった。

「服は金に換えたいところだけど、仕方ないか」

屋台裏の細い路地へ素っ裸に剥いたセラフィンを残し、ルチアは金策のため
商人たちの屯す酒場に足を向けた。

「ルチアさん.. 信じてるけど、絶対に帰ってきてね?」

「おう、任せろ(どす黒い微笑)」

昼時、酒場内はパンとチーズの匂いがむせ返っている。
交渉取引は腹の虫を鳴らしたら負けだった。

「子供服は下取りで。嬢ちゃんのメイド服は買い取ってもいいけど、中身はついてないの?」

「昨日まで売りに出てたんだけどね。高く買ってよ!婚姻届もつけちゃう!」

「そりゃ、高い!」

ふと、店先で喧騒が沸き起こる。
値引き交渉が刃傷沙汰に変わるなど、珍しいことではない。
かたや腕まくりの熟年男。もう一方は幅広を抜いた壮年の戦士。

「なあ、おっちゃん?私が戦士様をシメたとして、あの立派な剣は誰のもの?」

「あ?普通に戦利品だろ J K 」

交渉を中座して市場のルールを確認したルチアは、ストールで顔を隠し、
店用のモップを手にするや揉め事の渦中に歩を進めていく。
黒蝶で帯びた剣は脱出の際に失った。これからの逃避行に、武器は必須だった。

「悪いけど、お兄サン?私にとっちゃ、剣よりもモップのほうが相性がいいんだ」

ルチアへと照準を変えた戦士。
受けるルチアはストールの内側で、誰に知れることなく"邪眼"が光る。

戦いはルチアの攻勢に終始した。
戦士の振り上げた剣を握る手首を、リーチ差を利用したモップの柄で小刻みに寸打する。
隙を見て顔面へ突き出した、程良く腐臭を放つモイスチャーが戦士の動きを止めた。
その後、柄を中心に大きく円旋した柄尻が戦士の剣を戦闘範囲の外側に押し出して、
ルチアが近接距離に達する。

「食事中のおっちゃんたち、ちょっとゴメンよ!」

無防備になった戦士の鳩尾めがけて、渾身の肘撃ちを叩き込むルチア。
香ばしい食べ物屋の店先が異臭に包まれる。
テーブルにコインを置き腰を上げる客たちに逆らって、
ルチアは何食わぬ顔で交渉の席に戻り、戦利品の幅広剣を眺める。
百戦錬磨の実力を誇示したいま、酒場のおやじは気前よく算盤をはじいている。

「アンタの似せ絵を添えさせてくれたら、メイド服は高く買うよ?」

「その方向で進めてちょうだい」

グーーーーーーーーー・・・

まとまりかけた商談に安堵したものか、不覚にも腹の虫が店内に響き渡った。

「おやおや、切羽詰っているようだね。買い叩いちゃおうかな?」

「おやじ.. 勘弁してくれ」


ルチアとセラフィンが再び合流したとき、ふたりの外観雰囲気は一変していた。
ロングパンツにシャツとチュニック、目深に被れるキャップで軽快なルチア。
セラフィンのほうは誰から恵んでもらったのか、薄紅色のクロークをまとって
路地に座り込んでいた。

(何年も前に、自分もこうして路地にうずくまっていた。さすがに素っ裸じゃなかったけど・・・
 冬も間近い夜に、ショールを差し出してくれた富裕の女のコがいた)

当時のルチアはショールを受け取り、小馬鹿にしたような目で彼女を見上げていた。
寒さをしのぐのは夜具ではなく食べ物。毛布をいくら重ねても、熱を発しない身体が
冷え切っていくことを、幼いルチアはすでに知っていた。

まだ他人・・・ 交わることのない関係だと疑わなかった頃の、カタリナ姉との記憶だった。

「待たせて悪かったね。温かいものでも食べようか」

着古した子供服をセラフィンに与えると、屋台のおやじに幾らかの食べ物を所望する。

「もう売り切れだよ」

まだ昼をわずかに過ぎたばかりだった。

「さっき、戦いに汚れた女騎士が食料全部買い占めちまってね。
 なんでも"百合花"と"蝶"の城を落とした騎士団が通過するから、町を挙げて歓待しろと言って
 みんな持って行っちゃったんだ」

「"百合"と・・・ "蝶"・・・ 落ちた?」

真っ白になりそうな意識を保ちながらも、
ルチアはセラフィンが身につけているクロークの縫い取りを荒々しく探った。

そこには見覚えのある刺繍が施されていた。

「真紅の薔薇園.. 」

王国の騎士団に最も多くの人材を輩出している名門ローゼンハイマーの家章だった。
セラフィンが心配そうに語りかけてくる。

「このクロークをくれたお姉さんのコト、知ってるの?」

「"お姉さん"・・・ か」

彼の一言でルチアは立ち上がり、一刻の猶予もなく町を去る決意を固める。

「ローゼンハイムを冠する女騎士でひとり、厄介な奴を知っている。
 "鉄腕"アグネス・・・ 王都の将軍様以外で、唯一"邪眼"が効かなかった相手だ!」

  • 2012.11.08 Thursday
  • 00:00

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