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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-6


  第10系統
  北位上将軍帝冠クラウス家章

  ドラッケン・シュレイガー
  「破竜騎士団」

ルチアの創造する幻影に本体が重なり、
大上段に構えた剣が王都最強の騎士の背中を捉える。

「黒蝶のみんな、遅くなってゴメン.. 」

Ein Ritter 1-6
「導かれし黒蝶編−黒蝶城陥落−」


剣を振り下ろす腕が、戦いによる緊張からの開放と大将首を狩る高揚感とで震えた。
ふと、視界の片隅に飛び込んできたラファエラの祈る姿が、ルチアに微かな違和感を生み出した。

(何故だ?どうして、その不安そうな視線をロレンティウスではなく、私のほうへ向けているの?)

九分九厘確信していた手応えが伝わって来ない。
捉えたはずの背中は幻影となって、目の前で霧散して消えた。
やがて背後から襲う強烈な威圧が、ルチアを押し潰すほどに膨張して膝をつく。

「私の"邪眼"が・・・ 釣られた!」

その読みの深さゆえに、完膚なきまでの敗北感を植え付けられたルチアの後ろで、
ロレンティウスは大剣をもてあそぶ。

「対峙した瞬間の目配り、全身を使った挙動で数手先まで相手を支配する"受け"の剣。
 貴様に出来ることが、この俺に出来ないとでも思ったのか?」

すでに剣は必要なかった。
ロレンティウスは無造作にそれを落とし、放心するルチアの腹を蹴り上げる。
嘔吐物を撒き散らして、ルチアは後方へ吹っ飛んだ。

(何が【死神】の覚醒だ.. 戦場を経験した騎士たちと同列に並んだだけのアドヴァンテージ.. 
 剣の技など比べるべくもない.. 落ちてゆく.. 黒蝶の城が落ちてゆく.. )

口内の吐瀉物が器官を侵し、失禁した生温かい感触が内股に広がる。
すでに輝きの失せたルチアの左眼から、涙が伝う。
薄れゆく意識の中で、ラファエラの命乞いが聞こえた。
ロレンティウスは彼女の頭を軽く小突いて・・・

(とどめを刺さないのか?私を放っておいて、ゲオルグを追うのか?)

それまで耳に届かなかったセラフィンの啜り泣きが聞こえた。

(セラ坊に気付いていないのか?
 そうだ.. たとえ奴に勝てなくても、まだ敗北じゃない・・・ "邪眼"よ、飛べ!)

仰向けに転がるルチアを中心として、チェス盤の目のように思考ルーチンが展開する。

(邪魔だ・・・ 脱げかけた靴は置いていく。剣は・・・ そう、この位置でいい。
 追ってくるエルが、これに足をとられる。
 ロレンティウスは・・・ 3歩だ。あと3歩で、私とセラ坊まで届かなくなる・・・ 
 お願い・・・ もう少しだけ動いてくれ・・・ 私の身体!)

黒蝶城における "邪眼"の最終発動.. 

(動ける・・・ 思ったより軽い・・・)

いま、セラフィンを確保した。ラファエラが、いま転んだ。
そしてふたりは南の大窓から、濠に向かって飛び出す。

戦場離脱を確定させたルチアが城内を振り返ったとき、ロレンティウスは背を向けたままだった。
ただ、戦いのときよりも小さく見えた肩先と微妙に変えた歩調が、
邪眼を通してルチアへ語りかけてくるように思える。
意識の中で振り向いたその唇が、優しく微笑んだような・・・ そんな気がした。


「俺はゲオルグを追う。真に継承するべきは家章などではない。
 "破竜"最後のひとりを、寿命で逝かせはしない!」

ラファエラを見張りに残して、ロレンティウスはひとり、ゲオルグの寝室へ足を踏み入れた。

「他人の噂など、あてにならぬものだな」

ゲオルグはベッドに臥したまま、そう呟いた。

「王都の猛将軍は、その名に恥じぬ豪腕。だが直情的で、品性に欠ける・・・ か。
 これほど穏やかな刺客を、私は知らない」

ゲオルグは理解していた。
ロレンティウスが己に何を求めてきたのかを、彼は理解していた。

「私を蝕み続けた苦しみを継承しようというのだね?」

「大筋の察しはついている。故に、俺は"魔女"を出し抜いてまでここへ来た。
 あんたは自分の生きた足跡を呪い、懺悔すればいい」

ゲオルグは、かつて異教国の5分の1を削った20年前の遠征に従軍するも、
敵国深くに侵入し過ぎたために補給路を失い、海路の拠点奪取と引き換えに
壮絶な最期を遂げた、伝説のドラッケン・シュレイガー 「破竜騎士団」 の生き残り。

帰還を果たした騎士には彼ともうひとり、13歳の若さで参加した"破竜"の騎士、
エリザベート・アルザス・ユーノ(系統不明)に救世騎士席次が与えられている。

だが、ゲオルグは数年前から病床にあり、エリザベートもまた、故郷の地を踏んだときから
精神の崩壊を来たし、実質上の宮廷における発言権は空席となっていた。
"蝶"のミュンスターと宮廷席次を継承した 「煌胡蝶(きらこちょう)騎士団」 のカタリナは、
一切の政務外交案件に関与することなく戦没している。

ゲオルグは 「破竜騎士団」 の真相を吐露し、静かな眠りに就いた。

「前将軍"百合花"のエラスムスと、救世騎士"蝶"のカタリナが
 真相に辿りついていた可能性はあるのか?」

「ふたりとも、頭のよい子たちだった。私にはわからんよ」

生涯をかけて【愚者】の道を歩み続けた老将は【世界】の扉すら叩くことなく、
こうして物語冒頭に幕を閉じた。


寝室を後にしたロレンティウスは、駆けつけた騎士から 「氷葬騎士団」 の到着を知らされる。
大窓からのぞく濠の向こうに"魔女"将軍の姿を見つけると、
ロレンティウスは伝令役の騎士に次なる命令を与えた。

「あそこにも、イイ女がいるじゃないか?
 ついでに踏ん縛って奴隷籠へ入れておけ・・・ 俺より先に犯しても罪には問わん」


その頃、ルチアはセラフィンを抱えたまま水濠の南面から堰に到達していた。
それより先は長めの潜水を取る。
セラフィンの呼吸が気になったが、包囲軍の目を掻い潜るために止むを得なかった。
彼女自身も飛び込みにより右肩を亜脱臼しており、つらい逃走劇になっていた。

ようやく這い上がった岸辺で脱臼した自分の肩を泣きながらブチ込み、
水を飲んだセラフィンの頬を往復で張り、
口移しで息を送ったあとは、重ねた両掌を子供の薄い胸板に遠慮なく叩き込んだ。

そしてルチアは、水を吐いたセラフィンの隣に寝転がる。

「腹が・・・ 減ったな? ・・・体力が戻ったら・・・ 百合の城を頼ろうか」


また、陥落後に黒蝶城へ詰めた"魔女"将軍マルガレータに対し、
猛将軍ロレンティウスより正式に城主ゲオルグの首が差し出される。

「遠路はるばるご苦労。みやげを受け取れ」

「いらん・・・ 服が汚れる」

これらのやり取りから、戦地帰還を急いだ魔女の目的が透けて見える。
それは黒蝶城の早期開城に非ず。
ロレンティウスよりも早く、ゲオルグの口を封じようとした意図がうかがえた。

「正規の"鉄獅子"は、百合城へ向かったと聞いていたのだがな?」

腹立たしげに魔女が問うてきた。
騎士団を後退させるロレンティウスは振り返りもせず、魔女に答える。

「とっくに落としたよ・・・ 俺を誰だと思っているんだ?」

  • 2012.11.07 Wednesday
  • 00:00

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