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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-5


  




 

第296系統ムールナゥ家章

フリューゲル・フリュステルン
「ハチ鳥の羽根」

「領主ゲオルグの首ひとつで、すべての軍事行動は止まる。理解るな?」

通り過ぎようとするロレンティウスへ、膝から崩れようとするコロナが懸命に手を伸ばす。

「嫌だ.. 俺の城だ.. 俺たちの城なんだ.. 」

弱々しい左の手が、ロレンティウスの足首を掴む。
言葉は10年も昔に、確かに存在していたであろう故郷のそれに変わっていた。
 

Ein Ritter 1-5
「導かれし黒蝶編−邪眼繚乱−」


「大人はみんな言う。子供は戦場の苦労を知らないからって.. ざけんな.. 
 俺たちは、俺たちの戦場を生き抜いてきたんだ。
 親無しなんて哀れむほどのもんじゃねーよ.. たいしたコトじゃねーんだ.. 
 親兄弟がいないコトなんて、これっぽっちもたいした問題じゃない.. 

 俺たちは、お前ら騎士団に蹂躙されたんだ!
 家を失い、国を失い、ものごころついた時から口にしていた言葉を失ったんだ!
 ヨスガを失くした苦しみを理解されてたまるか!あれは.. "死"と同義語だ!

 抗う術を知らなかったガキの頃とは違う.. この手を離したら、またすべてを失っちまう.. 
 リンゴの皮を奪い合っていた、ゴミあさりの俺たちに戻っちまうんだ..
 嫌だ.. 嫌だ.. それだけは、もう嫌なんだ.. 」

コロナを見下ろす、ロレンティウスの冷たい眼光。
掴まれた手のひらを踏みしめる彼の足が、中指と、人差し指を順に軋ませていくたびに、
乾いた骨の音が心の折れる様に同調していく。

「女はお持ち帰りだ。舌を噛まないよう、猿轡をしておけ。
 あと、俺より先に犯しやがった奴があれば殺す.. 行け!」

居合わせた残兵ふたりに言い含めると、将軍ロレンティウスは単騎で北塔の階段を登る。


東塔に達したセラフィンは、周辺の静かさに驚かされていた。
早足で通り過ぎかけた部屋のなかに、人影を見つける。

「ルチアさん?」

「セラ坊か」

ルチアはテーブルの上に腰掛け、カーテンの端切れを指に巻きつけているところだった。

「爪をやっちまってね.. 剣に慣れてないから、邪眼の創造力にズレを感じる。
 こんなコトなら、扱い慣れたモップのほうがマシだったかもね・・・ よし、戦線復帰だ!」

応急手当を終えて、セラフィンを促す。

「北塔でコロナさんが.. 助けにいかないと!」

「別れを告げて来なかったのかい?」

ルチアの現実的な言葉だけが、セラフィンを貫いた。

「自分の足でついて来れないなら、殴り倒して負ぶっていくだけだ。手間をかけるンじゃねーよ」

セラフィンは悲しかった。冷たい石の床、助け合う美徳を否定する戦場。
守られているだけの自分を理解したとき、彼はとても悲しかった。

東塔を駆け降りるふたりは、階下より迫る剣兵3名を察知する。
セラフィンは躊躇するが、ルチアは走る速度を緩めない。

「問題ない.. 邪眼!飛べ!」

セラフィンは見た。
3 on 1 の戦いを制し、階段下に佇むルチアの幻影。
その幻影を追うように、彼女が兵士をひとり、またひとり駆逐していく。
階下に浮かぶ幻影にルチアの本体が追いついたとき、00分17秒44 の戦闘シーンが終幕した。

「立ち止まるな!来いっ!」

中2階の踊り場から階下を一瞥すると、単騎で登ってくる女騎士の姿を視認する。

「ル、ルチアなの?」

(ラファエラ・・・)

互いが捕捉しあうよりも早く、ルチアは宙を舞っていた。
体重を乗せた重い斬撃にラファエラの体位が後方に流れると、ルチアは彼女の出足を引っ掛け、
顔面に当身を打って階段下まで張り倒した。

(技じゃない.. 技じゃないけど、判断力の速さで圧倒された!)

腰をしたたかに打ち、見ため以上に何も出来なかったラファエラ。
本来なら"邪眼"の構築する識域下の身体機能が、ラファエラの喉笛に凶刃を突き立てていた
はずだった。しかし、予定外の何かがルチアの本体に判断の再審を仰いでいた。
それは、ルチアが知る彼女に無いはずの臭い・・・

「なんか、ドブ臭いな?こいつ・・・」

このひと言がラファエラの心にとどめを刺した。
そしてまた、斜め前方から走り寄せる軽鎧の一団へ"邪眼"が発動し、
ルチアはラファエラから離脱する。

新手の騎士ふたりは、剣を手に向かってくる、左眼が異様に碧く光る少女を見た。
前方から来るにもかかわらず、なぜか背中越しに短刀を首筋へ突き立てられるような
不思議で冷たい感触。その冷たいはずの部位に激しい熱が通り過ぎていく。
碧く光る瞳の少女と手をつないだ少年・・・ そして自分の首筋から噴く赤いほとばしり・・・

それが、ルチアの Böser Blick (ベーザ・ブリック)
"邪眼"を体感した騎士らの最後の瞬間だった。

尖塔から本館の地上階に達したルチアとセラフィンは、舞踏館ホールより一路、
2階ロビーを目指す。

「吹き抜けになっている南面から、外濠の排水堰に飛び込んで囲いを抜ける!」

ホール内の敵勢力は剣兵 2、槍 1、強弓 2.. !
穏やかに翳りを帯びた碧色の左が一転、一層の輝きを放つ。

「生命が惜しい者は、"邪眼"の射程内から道を開けろ!」

ルチアの体躯に降臨する死神の面影・・・
舞踏館で武器を構える者すべてが体感する、水の中を掻き分けるような感覚鈍麻。
その緩慢な空間を、地上と遜色ない動きで制圧していく、この世のものではない何か・・・
彼女が駆け抜けたあとに折り重なる、屍が5ツ。

螺旋階段を登り、南側の木格子窓を破壊すると、青臭い夏の風が吹き込んできた。

「ボク、少し怖いです.. 」

窓から地上を見下ろすふたり。濠まで俯瞰でかなりの距離がある。
ルチアが息を飲み、セラフィンの手を取ると、螺旋階段から迫ってくる巨大な威気が
静電気のように弾けて消えた。

「俄かに信じ難いが、お前なのか?【鉄獅子】の予備軍を撫で斬りにしてくれたのは.. 」

ケーニッヒ・デア・ティーレ 「孤高の獅子王」 を冠する王都の"猛将軍"
ロレンティウスが、ルチアの前に立ちはだかる。

ふらつく足であとに従う騎士ラファエラが、精一杯の声を振り絞る。

「お願い、ルゥ.. 投降して!目の前で友達を失いたくなんかないっ!」

ルチアはセラフィンの肩に手を置くと、震える声で少年を諭した。

「セラ坊.. ひとりで飛べるか?私はこいつと遊んでから、お前を追いかける!」

剣を構えたルチア。ラファエラから剣を受け取るロレンティウス。

「今日一日の実戦で"邪眼"は練れている.. 
 最後の締めくくりに、王都最強の騎士ロレンティウス!あんたを食い破ってやる!」

ロレンティウスの左右にルチアの幻影が張り付く。
相手の立ち回る先を制するように、攻めの選択肢を懸命に塞いでいく。
一方で、強大な剣威を閃かせて"邪眼"をこじ開けて来るロレンティウス。

だが防戦から一転、攻めに移ったルチアの読みが
相手の無防備な背中に剣を振りかざす幻影を創造した。

ルチアの本体が配された幻影へと重なり、
鈍色の閃きがいま、猛将軍ロレンティウスを捉える。
 

  • 2012.11.06 Tuesday
  • 00:00

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