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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-4













 

第114系統エーベルバッハ家章

ケーニッヒ・デア・ティーレ
「孤高の獅子王」

「ルチアが東塔で安定しているようだ。鉄獅子の主力は南..
 なら、俺たちゃ北にするか?ショタ郎」

「ボクの名前はセラフィンといいます」

堅苦しさの抜けない"百合花"の少年の頭を乱暴に撫で回したコロナは、
小太りのテスラとともに北塔突破へ向けて走り出す。

「俺の育った土地じゃ、ショタ郎と発音するんだよ。とっとと付いて来い!」
 

Ein Ritter 1-4
「導かれし黒蝶編−ロン・・−」


背後で悲鳴を聞いた。
男も女も入り混じった、耳を覆いたくなる叫び。セラフィンと同い年ほどの女のコさえいたはずだった。

「振り返るんじゃない。あいつらには言い含めてある。
 生き残れるなら、なんだってしろ・・・ とな」

言葉の意を解したテスラはコロナに問う。

「家章を放棄する道は有り得なかったかね?」

「おっさんたちのせいじゃねーよ。家章を突き返しても、継承を正当化するために
 ミュンスター誅滅の首が必要だっただろう。ゲオルグは寿命だとしても・・・」

コロナはセラフィンを見遣った。
やがて黒蝶城北塔に剣戟が響く。

−Weise Teufelskugel (ヴァイセ・トイフェルスキューゲル)−

剣と剣の力比べから手甲を返して、靴の爪先よりコロナの 「白い魔弾」 が敵戦士の太股を掠める。
やがて2撃目となる力の拮抗を制して、次は剥き出しの首筋を裂いた。

「靴に仕込んだ白刃か。いいものを持っているじゃないか」

走るのに慣れていないテスラが、余裕を見せようとしきりに言葉をかけてくる。

「準備不足でね.. これでも威力半減してるんだ。
 誰かさんが昨夜、勝負下着を汚してくれちゃったからな!」

そんなふうに茶化せば、彼が顔を背けて先行するだろうことをコロナは知っていた。
しんがりになったコロナはふと足を止め、戦い尽きた戦士をそっと振り返る。

(死んだのかな・・・?)

思っていたほどの痛みは無かった。
だが彼女はまだ知らなかった。戦場における死神がとても多忙だということを。
彼が新たなる堕落者に語りかけるのは、夜、一人寝の暗いベッドのなかだということを、
コロナはまだ知らなかった。

遅れて北塔を駆け降りると、地上階に到達していたテスラが狼狽するのを見た。
眼前には、チンピラ同然の兵士2人が、その背後には意匠を凝らした鎧の大男がひとり控えている。

(まさか、こいつがロレンティウスか・・・)

だが、テスラの取り乱した理由は兵士たちの手によって突きつけられた生首にあった。
"百合花"の騎士ファイトの、青白いそれであった。
彼らの心無い中傷が容赦なく、テスラへ向けて浴びせられる。

「前将軍のザマといい、ミュンスターの連中はこの先、敵前逃亡を謗られ続けるんだ。
 復権など有り得ねーんだよ!」

「その子はまだ、騎士の叙任を受けていない。お願いだ、返してくれ!」

ファイトの首を取り返そうとしてかわされたテスラは、勢い余って地べたに突っ伏す。

「お願いだ!金ならいくらでも払う.. 」

額を石畳の床に擦りつけ、懇願するテスラの顔に唾が吐かれた。

「醜いブタが.. どのみち財産なんか手元に残るわきゃねーだろ!
 豚、豚、豚・・・ 太った腹のせいで、これ以上沈まねーのか?この豚!」

兵士の土足が、土下座するテスラの頭を執拗に踏みにじる。

「ムカつく.. 」

叔父の元へ駆け寄ろうとするセラフィンを制し、コロナが呻いた。

「アンタ、王都の将軍だろうが!手下のやりようを見て、なんとも思わねーのか?
 きちんと教育しろよ!ああ!?」

鬼の形相で突進したコロナは、倒せないまでも兵士2人ぶんの壁を強引にこじ開けた。
精神的弱者の虐げられる様を壁の向こうで愉しんでいた鎧の騎士に、怒りの剣が届く。
しかし、騎士が振り下ろした剣撃を受けきれず、コロナの剣が激しい音をたてて、
床に叩きつけられた。
利き腕の親指が、付け根から骨ごと砕かれていた。

圧倒的な力の差を見せつけられた。

「この女は、殺してから愉しんでみるか.. 」

騎士の言葉が他人事のように聞こえて、死を覚悟した。
だが、白昼夢のようにゆったりとした空間へ、ファイトの首を大事そうに抱えたテスラが割り込んで、
自らの肩口に騎士が振り下ろす一撃を受ける。
致命傷の音がした。

「おっさん・・・」

ふらつく足取りで、テスラは外濠を目指す。

「この子の首は、私があの世に持っていくよ。
 わしらが訪ねて来なければ、城の子供たちだけでも助かったのだろうな..
 ミュンスターなど、もうどうでもいいんだ。ただ、この子は臆病者として晒されるには
 あまりにも幼すぎる。それだけなんだよ・・・」

二度とは浮いてこない決意とともに、水音をたててテスラは落ちていった。
雄叫びをあげるコロナの眼前で、不意に大男の騎士のヘルメットが持ち上げられた。
予想通りの汚らしい顔が目に飛び込んでくる。
意表をつかれて振り返った騎士は、そこに軽装備に身を包む若い別の騎士を見て戦慄する。

「黒蝶城での鎧着装を認めた覚えはない。威嚇は控えろと警告しておいたはずだ」

輝くような威光を放つ若年の騎士は、大男の兜を取り去ったうえで濠の中へ殴り落とした。

「フルプレートのまま這い上がってこれたら、命だけは助けてやろう・・・ と思ったが、無理か」

コロナはすべてを理解した。

(こいつだ!名札はついてないけど、見ているだけで命を削られるような無言の威圧感と暴力。
 こいつが猛将軍だ!こいつがロレンティウスだ!)

「厨の周辺で何人か、女子供が転がっていたようだが?」

残る2人の兵士に向かって、ロレンティウスは問い質す。

「ご、ごめんなひゃい・・・ ひょう軍しゃまは百合の城を討ちにいって帰って来ないと
 隊ひょうがゆうもので・・・ ごめんなひゃい・・・」

兵士のひとりの顎を素手で掴み、片手でゆうに持ち上げるロレンティウス。

「俺を出し抜いてつまみ食いした奴の末路を、宮廷楽師にでも尋ねておけ!」

警告よりも早く顎を砕かれる兵士を目の当たりにして、コロナはセラフィンに
東塔のルチアを追うよう耳打ちした。

「悪いけど、丸腰のこいつを抜く自信がこれっぽっちもねえ・・・
 模擬戦じゃルゥと対等に渡り合ってたつもりだったのに、実践だとこんなにも
 水を空けられるのかよ・・・ ザマぁねーな、握力が死んじまった・・・ 剣も握れねぇ・・・
 テスラのおっさん、金持ってそうだし、置いてかれないうちに追いかけてみるか」

セラフィンが北塔を登るのを見届けたあと、
コロナは両腕を広げてロレンティウスの行く手を遮った。

「なに勝手に他人ん家へ上がろうとしてンだよ?テメェ.. 」

「どきな.. 血を流すのは、ミュンスターの血統だけで充分だ」

「遅せーんだよ!どれだけ仲間が転がったと思ってやがる!」

猛るコロナを前にしても、ロレンティウスの歩みは止まらない。
立ち塞がるコロナの左脚をロレンティウスがひと蹴りでへし折ると、
またひとりぶんの悲痛な叫びが、黒蝶の冷たい石壁に吸い込まれていった。
 

  • 2012.11.05 Monday
  • 00:00

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