Calender

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2020 >>

Categories

Archives

Recent Entries

反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ22/晩鐘−Cloche du soir−

 

TQ配達品=

TQ配達先=

2nd Quest=ミネルヴァの捜索

 

晩鐘−Cloche du soir−(後編)

  

あれから1週間が経った農場では、収穫期に合わせて渡ってきた農夫で賑わい、

共同宿舎にも喧騒が溢れ返っている。
その人山から入れ違うように、ファウスタと仮初めの親である中年夫婦らが、
集団農場から離れていった。それまで隔離されていたアレクも同様である。
それまでに、ファウスタから何らかの告白があった事は聞かされていた。
そしてミネルヴァ自身も、家章申請に送付したものとは別に作成した、
家章細工を直接、アレクに託している。
彼は抗う言葉もなく、家章を叩きつけることもせず、無言で目を閉じていた。
彼と真逆に、タチヤナが家に留められる形で二人は別れも告げられず、
或る日、唐突に、ひとりぼっちの農場生活に取り残されてしまう。
彼女が手首を切ったのは、軟禁宿舎から出され、家路について間もなくだった。
 
「大丈夫だ.. 出血は止まっているし、命に別状はない」
 
医者ではないが、処置に慣れている季節狩人が万全の手当てを施す。
とりわけ不慣れな女の手で、ひと掻きに致命傷を負うのは稀らしい。
治療が終わるまで付き添っていた、タチヤナの父親がいう。
 
「農場の誰も、こいつを放ったらかしにしていたワケじゃない。
 ただ、ちょっと負い目があって話し辛かったのだろう」
 
集団農場で収穫された小麦は、昔であれば領主たるユルチェク家に納品された。
自由売買が認められた今日であっても、最低買取額と買取量を保証する、
いわゆる得意先には立場が弱かったのは間違いない。
あと、農繁期に忙殺されていたのも、言い訳のひとつだろう。
ミネルヴァが、眠ったままのタチヤナに付き添うのを申し出たため、
両親は揃って農場を手伝いに行った。とりあえず命が助かったのであれば、
作業割当を他の農夫へ押しつけるなど出来ない。
そうして翌日の朝暗いうちに、タチヤナは目を覚ました。
傍らにはミネルヴァがいて、まもなく彼女に気づく。
不眠でついていたというより、細工の彫金を続けていたとするのが正しいか。
 
「あれ.. 私?」
 
記憶が混乱しているためか、次の句が喉から出てこない。
だがミネルヴァのことは、はっきり憶えているようで、
むしろ言葉が見つからないとしたほうが適当だろう。
そんな彼女を慮って、ミネルヴァのほうから、
仕上がったばかりの彫物を手渡した。戸惑うタチヤナ。
 
「あの.. これ」
 
「タチヤナに。これは、君のための"翼"だよ」
  
鐘楼を象ったアンク十字に生えた1対の翼。
それは彼女が物心ついた折から親しんできた聖印だった。
少し、アレクの主家の家章を加味してある。
何より、彼女を驚かせたのは、素材が白金製だったためだ。
 
「あーそれは気にしないで。他に材料がなかったんだ」
 
事実、白金はユルチェク家から贈られた対価である。
タチヤナは、それを胸に当てることも、払いのけることも出来ずに、
ただ身体から遠く距離をおいた手の中で握り締めたまま、すすり泣いている。
彼女の内に、葛藤があるのは明らかだった。
それは聖印が持つ金銭的な価値などという下衆いものでなく、
幼い頃からアレクとともに学んだ、説教師と共にあった日々と、
アレクを奪い去った根源でもあるそれに対して、
抱き包み込むのと床に叩きつけようとする思いが相反している。
タチヤナがどうすることも出来ないでいるところへ、
ようやくミネルヴァが語り始めた。
 
「いいかい?宗教なんてのはクソだよ」
 
予想外の言葉に、タチヤナが耳を傾けているのが伝わる。
彼女の、肩の震えが止まる。
 
「向こうから押しつけてくる宗教観なんてものはクソだけど、
 君の中の信心は美しいものだ」
 
そこから始まる昔語り。
ミネルヴァが王都内戦時に身をおいていた抵抗組織で知り合った、
ある女性の話だった。
 
 言っておくけど、その女も相当なクソだからね。
 それでも彼女のコトを今でも忘れられないのは、
 クソの中にも、美しさを感じたからだと思ってる。
 
またタチヤナの肩が微かに震えだした。
組んだ腕に顔を埋めているため、表情は分からないが、悲愴さは感じない。
そもそも、ミネルヴァがクソ、クソ言い過ぎ。
 
 彼女は戦禍で姉と慕っていた身内を失くし、仲間たちさえも失くして、
 何度も自死を考えたそうだ。
 初めて喉元に短剣を突きつけたのは、廃墟同然と化した神殿だったそうだよ。
 でも、彼女は思いなおした。
 間際に、お姉さんの信仰していた"翼"と、
 自死を許さない戒律が頭を過ぎるから。
 
 簡単だよ。命を自ら捨てたいなら、信仰を捨てればいいんだ。
 ああ、そう言えば、私の知る女性には信仰心なんて無かったね。
 姉に対する想いだけは、相当だった気がするけど。
  
タチヤナは、アレクとの暮らしを思い出していた。
その過程で、ほんの少し、アニカのことも混じってくる。
それ以外の、外の農場で生活する友達の顔も。
思い出は、いつも、巡回説教師の胸に下げられた"翼"と共にあった。
やがて代わりに付き添う女性が宿舎に入ってきて、
ミネルヴァも身支度を整え始める。
彼女が退出した後で、タチヤナは再び身を横たえ、
シーツの中で白金の翼を握り締めていた。
先のことは分からない。でも、とりあえず、明日になったら麦畑に行こう。
いつしか、また、タチヤナは寝息を立てていた。
 
 
それから間もなく、集団農場を出たミネルヴァは、
王都から急襲してきた騎馬に追われていた。
 
「ひょええええーっ!」注:ミネルヴァの悲鳴
 
いよいよ追い詰められ、命も風前の灯といった状況で、
囲みを打ち払う助っ人のような騎兵が2騎、現れる。
 
「ぎょええええーっ!」注:ルチアの奇声
 
「待てっ!こらっ!」
 
相方は暴走する騎馬を諌めているようだが、まったく効果なし。
オーバーキル気味に落馬させてくる凄惨さに、ミネルヴァは、
彼女らが敵とも味方とも区別つかず、地面を這うように逃げ出していく。
やがて追撃をかわした先で、狂戦士(仮)の立ち回りを思い出す。
 
 あの、けして速くはないけど、結果的に高速にみえる打ち合い。
 いつかのクソ女に似てる気がしないでもない。
 
ちなみに、先程のルチアとコロナは面頬装着で表情は判別不可。
 
 いや、絶対に違う。
 あの女は思い出すだにクソだったけど、
 "百合花"のミュンスターが継承する"予見視"は、
 もっと知性ある立ち回りだったはず。あんな野獣じゃない。
 
またルチアらはミネルヴァを確保出来ず、数週間が経った。
 

 

収穫に追われ、それまで顧みる時間もなかったタチヤナは、

次第に手伝い農夫が数を減らし、仕事にも余裕が生まれるにつれて、

手を休めることも多くなった。隣に結婚を誓い合ったアレクはいない。

ふと顔をあげたとき、晩鐘の抜けていく空に向かって、

躊躇い傷の残る手を翳してみる。少し、笑みがこぼれた。

 

「不思議なものね。つい先日まで、手を伸ばせば掴めそうだった雲が、

 もう、あんなに高く遠くなってしまったわ」

 
  • 2020.09.26 Saturday
  • 00:00

Comment
Send Comment