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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ22/晩鐘−Cloche du soir−

TQ配達品=

TQ配達先=
2nd Quest=ミネルヴァの捜索
 

晩鐘−Cloche du soir−(中編)

  
かつて小領主が支配した自由自治領の点在するアレル川流域。
8月から9月初めにかけて、地域一帯を黄金色に変える穀倉地帯でもある。
あとしばらくすれば、刈り入れ繁農期を迎えるだろうアレルの畔で、
まだ10代と思しき男女が、サンドウィッチの昼食を広げている。
ひょっとしたら彼らは、今年の収穫祭で祝福される二人になるやも知れない。
そんなコトを思い巡らせながら、デザイン帳越し、
ミネルヴァはお腹を鳴らしていた。途端、彼らと目が合ってしまう。
  
「ちっ、違います!お二人を出歯亀ってたワケじゃなくてっ!
 サンドウィッチに目がイッちゃってただけでっ」
  
言い訳の途中で、それもどうかと気づいてしまうミネルヴァ。
男女は顔を見合わせたあとで、サンドウィッチをひとつ、オススメしてくる。
 
「私が作ったもので、お口に合うか分からないけれど」
 
この天にも昇る申し出に、彼女は何と答えたか記憶にない。
或いは礼もそこそこに、食事を貪ったかも知れない。2日ぶりの栄養源だった。
 
「もしかしたら、渡り農夫の方ですか?」
 
ミネルヴァが人心地つくのを待って、男性のほうが、そう尋ねてくる。
まったく寝耳に水だった。男女は、もう一度、顔を見合わせると、
今度は女性が、思い違いに至った理由を説明してくれた。
 
「小麦の刈り入れは初夏から夏にかけてなのですが、ここ北よりの自治領では、
 耕作地帯が少しばかり大きいことから、収穫を秋の入りに遅らせていて、
 いまの時期には、お手伝いの農夫さんが多勢、来て下さるのですよ」
 
「もしよかったら、あなたも逗留されるといい。食いっぱぐれはありませんよ」
 
二人は、アレクにタチヤナと名乗る。昼休憩が終わった彼らに案内されて、
ミネルヴァは古い大倉庫を間仕切りした仮設住居までやって来た。
賑わいもなく寂しい佇まいだったが、何人か先乗りの中年男女が、
農具の磨きに腐心している。おそらく夫婦だろう一組に従う形で、
ミネルヴァと年齢も違わない娘が、言いつけをこなしながら、
偶にこちらを気にかけている様子だった。
最盛期には言語も文化も違う者たちで溢れ返るため、
彼らは望んで語りかけない限り、会話に花が咲くこともない。
ひと通り、生活場を見せてくれたあと、アレクたちは、
集団農場で自分たちの所属するグループのまとめ役に、
ミネルヴァを紹介してくれた。初見、何やら忙しない雰囲気を帯びていて、
そっけない態度にあしらわれた印象だったが、その日の夜、
パンとジャガイモのスープをお腹に入れたあとで、待遇が一変した。
  
「あんた、もしかして家章管理人のグランベルガーさんじゃありませんか!」
 
両膝をついて、食い入るように迫ってくる。宿舎ガラ空きなのが災いして、
建物には、まとめ役とかいう男と二人きり。
初めは遠慮がち否定していたミネルヴァだったが、彼は最近、
所用で王都貴族院に出入りしていたようで、
その際に見た手配書に確信を持っている様子だった。
彼女にとって、身分が知れるのは追っ手がかかる危険に直結する。
 
(あー、パンとスープの生活保障が消えてゆくぅ)
  
夕飯一食で夜逃げかと覚悟する状況だったが、どうやら何かが違う。
まとめの話によれば、昼間、世話になったアレクに関する問題のようだった。
 
「グランベルガー管理官に、アレクの貴族復帰に必要な家章を描いて欲しい」
 
乞われて即請け合う類の仕事ではない。だが、すでに手元には、
アレクの出生証明やら家長の署名が入った公正証書やらが、山積みされていく。
 
「でも、これ、貴族院で認められなかったワケですよね」
 
ミネルヴァの反論に、まとめ役の肩が微かに動く。彼女も察するところがあった。
アレクの王都召還を容認できない何かが、貴族院にある。
系統譜を追えば、彼がクランプ侯爵家に連なるのが分かる。
 
「クランプ家は司祭の家柄らしく、"鐘楼"を用いた意匠で構成されます。
 新たな家章発行を申請するのに困難はありませんが、
 問題はそこじゃないですよね。盟主領の侯爵位以上であれば、
 かつて皇帝継承の選帝権を持った方々で、立憲君主制に移行した今なお、
 変わらぬ影響力を行使する立場にありますから」
  
夜分に頼み込んできた男の額に、汗がじわる。
思っていた以上に、アレクの秘密を包み隠さず告白せねばならない状況だった。
多少、若い娘過ぎるのが躊躇いの原因なのだが、もとより、
頼れる管理官職が西か東の二択しかないわけで、彼にとって否応もない。
 
「この集団農場に数え5歳のアレク坊ちゃんを匿いましたのは、
 偏にクランプ家に降りかかる禍(わざわい)から遠ざけるために他なりません。
 今年の収穫祭で成人を迎えるにあたり、お返しできれば、と」
 
「いえ、その前に、集団農場と宗教祭祀のクランプ家が結びつかないんですけど?
 後継嗣を預けるには、それなりの信頼関係が絶対条件だよね」
 
おっちゃん、更にじわる。
 
「つまり.. あの.. 直接の依頼者と申しますのは、ユルチェク家でありまして」
 
それなら、合点のいく話だった。ユルチェクは集団農場を含む旧領主の出自で、
遠征騎士団の食糧補給を担ったことから、中央進出を果たした勢力家である。
阿漕な搾取で追われたのでなければ、依然影響力を持っていても不思議はない。
 
「え.. じゃあユルチェク家とクランプ家の繋がりは?」
 
「は.. それがつまり.. 私どもにしましても、心苦しい問題でして」
  
まとめ退出後、藁ベッドに身を横たえたミネルヴァは、
昼間に出会った善良な恋人同士を振り返り、複雑な思いに駆られる。
 
(なるほど、クランプ家の跡取りとユルチェク家の令嬢が許嫁関係、ね)
 
 
翌朝早く、ミネルヴァはアレクに面会を申し入れる。
意外にも彼は農作業奉仕から切り離され、見張りつき軟禁状態になっていた。
今度はミネルヴァがじわりながら、いろいろ聞き取りする羽目になる。
少なくとも、一片のサンドウィッチを恵んだのが起点となって、
アレクとタチヤナは引き裂かれようとしている真っ只中である。
 
「記憶にありませんよ、許嫁なんて!僕は物心ついたときから、
 この集団農場で、土に親しんできた。
 タチヤナは.. タチヤナは、この事について聞かされているのですか?」
 
「別れろ、と言い含められてるとは思うけど、詳細までは、ちょっと。
 今度、おっちゃんに会ったら聞いておくね」
  
アレクは両手のひらを差し出し、広げてみせる。
貴族とは無縁の、長年、土いじりに親しんできた手のひらだった。
すこぶる、質(たち)が悪かった。このままでは彼女自身が、
親切を施してくれた二人に引導を渡すことになる。
宿舎に帰ったミネルヴァは、ふたたび藁ベッドに横たわり、目を閉じて、
記憶の深淵を探った。彼女が家章管理官となるために読みあさった、
書庫にあふれかえるような家系史と家章図覧の数々。
それは戒めや経験則あり、ただの御当家自慢に終始する場合も多々あった。
  
(ふーん、アレクの御祖父さんは身内に、正しくは娘婿に毒殺されているのか。
 そうやって家長を継いだ女系譜も、娘婿が男系側の使用人から毒を盛られて、
 男系統に戻っている。
 娘婿は貴族特権で無罪放免、娘婿殺しは使用人だけ処刑台か。
 いっぽうユルチェク家の御令嬢は───ああ、御両親が辻強盗の手に掛かって。
 中央入り2代目とはいえ、貴族の馬車襲撃って一般市民の所業じゃないな。
 もっと、命を縮めるのを生業とするような.. うゔぉっ!)
  
思わず藁ベッドから跳ね起きたミネルヴァ。そのままだったら、
込みあげてくる吐瀉物に侵されるような気がしてならなかった。
それ程に、凄惨さが極まった。
 
(何これ?何これ?)
  
地方住みのとき現地妻との間に子供を作ったとか、傷痍軍人を遠ざけたとか、
そんなレベルの家系秘史ではない。選帝権と女系継承が絡むだけで、
こんなにまで姻戚関係が血みどろに染まるのか。
しばらく横になれない身のうえを歎きつつ、頭の中を整理していると、
独占個室状態の宿舎を訪ねる者があった。戸を叩く音からして、女性だろう。
果たして、河畔で出会ったアレクの恋人(暫定)、タチヤナだった。
彼女はミネルヴァのために、手製のサンドウィッチを持ってきた。
手巾の口を解きながら、涙声をともない、精一杯の嘆願を振り絞る。
 
「農場の大人たちが、アレクに会っちゃダメっていうの。ワケわかんないわ。
 でも、うちのお婆ちゃんが言うには、
 ミネルヴァなら何とかしてくれるかもって。それも何だか分からないけど、
 でも、私に出来るコトって、これくらいだからっ!」
  
プライスレスな野菜+卵サンドが、タチヤナの手の中で"食べて♡"状態。
とてつもなく、お腹に重たそう。それでもミネルヴァは受け取って、
ひとくち齧ったあとで、彼女にアレクとの馴れ初めを尋ねてみた。
出来れば、ライトな恋バナが聞きたい。適度に熱すぎないやつ。
  
「馴れ初めっていっても、農場区画が割り当てられてるから、
 小さい頃から同じ場所で顔を合わせていれば、普通に気になってくるよね?」
 
恋仲になる告白をしたのは、アレクからだった。たぶん、12歳のとき。
この地域では学校に通うとか、そういった施設がなくて、
農閑期に巡回説教師の元へ集まって勉強するのが、ごく普通になっている。
子供にとって、異性に対する目先が変わるエッセンスのようなもの。
それまでにも、タチヤナは、いろんな顔のアレクを見続けてきた。
直接、農業に関わるような種蒔き、草むしり、刈り入れだけでなくて、
灌漑工事の手伝いも、冬の雪掻きも、収穫祭の笑顔や、
不作の年の不安まで共有してきた二人だった。
 
「ごく普通に結ばれて、子供を生んで、育てていくものだと思ってた」
 
タチヤナは軟禁されはしなかったものの、アレクの宿舎へは近づけないという。
彼女は、アレクの出生について、何処まで聞かされているだろうか。
これは現在のところ、ミネルヴァから伝えてよい話でもあるまい。
10代若者といえど、歴史あり。昼休みの間、思い出語りの聞き役に徹して、
タチヤナの退出したあと、残り2切れを口の中に詰め込む。
  
(昨日のサンドウィッチと具が同じだ)
  
たぶん、アレクの好物なのだろう。渡せなかっただけで。
気が乗らないワケではないが、手が動かない。
せめて頭の中で、鐘楼に重ねるべき素案を思い描く。遠雷が鳴り、
午後からは激しい雨になった。
 
コツコツ.. コツコツ..
  
ひどく辺りが暗くなって、宿舎の戸を叩く者があった。
招き入れると、昨日の昼に見かけた、中年夫婦のうちの男方である。
  
「配給食が回ってきたのじゃが、今日は冷え込むから、隣で一緒に食わんか」
 
昨夜は確か、パンの入った袋とスープ皿を持ってきてくれたのが、
手ぶらのまま、先乗り農夫同士、車座になって暖をとろうと言う。
訪ねてみると、剥きだした土間に火がくべられていて、
あかあかと燃えるそれは、稲光で落ち着かない心を払拭してくれるようだった。
意外だったのは、それなりに賑やかしいのを想像していたところ、
火を囲んでいるのは中年夫婦(と思しき)二人だけで、そこから離れて壁際に、
やはり、昨日に見かけた女の子が1人ある。年の頃、タチヤナと同い年くらいか。
はじめ、素っ気ない様子だったが、目が合うと、黙りこくったまま会釈する。
  
それが渡り農夫の娘、アニカと向き合った最初の印象だった。
 
  • 2020.09.12 Saturday
  • 00:00

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