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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ22/晩鐘−Cloche du soir−

  

TQ配達品=
TQ配達先=
2nd Quest=ミネルヴァの捜索
 

晩鐘−Cloche du soir−(前編)

  
「お嬢様は特別なんですよ。セレシア領の生まれだと申し上げましたよね?
 5歳のときから戦禍を経験されて、
 15歳の王都内戦では鉄獅子小隊まで率いられた方ですから」
 
弟君に危害を加えようとした暴漢相手の立ち回りで、
セリエは子息フリードリヒに対する浅慮を拭うために、たったの3行、
言葉を残す。弟君を守れなかった。エスコートするはずの女性に救われた。
ましてや、剣を借り受けようとしたセリエに、何の抵抗も示せなかった。
それらが僅かばかり、男性という生き物の不可解さに困惑しただけである。
それ以上でも、それ以下でもない。
 
 
そんな経緯がありました、1週間後の旧薔薇邸。
ルチアは、セリエのやらかした不始末に頭を抱えていた。
 
「どうして、こうなった?」
 
「申し訳ありません。何と言いますか、心のケア?みたいな?
 泥沼に溺れる若者へ手を差し伸べたら、もろとも引き摺り込まれた気分です」
 
先週に招かれた立食会(舞踏会?)を縁に、ウェルス伯爵家の弟君が、
旧薔薇邸"夏の家"を訪れるようになったまでは良かった。
名目上は薔薇園の散策であるが、陽射しの強いうちは邸内で涼をとり、
最近、余り気味だった"あつ草"クッキーを茶菓に談笑する日々。
 
「おお!もろこしの澱粉を混ぜたら、サックサクじゃん」
 
「だろ?これで小麦粉の産地を気にせず、思いっきり抜けるぜ(型を)」
 
共同邸主ルチア&コロナ、客人ハインリヒ君、給仕係セリエの客間。
これに何が不満なのかと申し上げると、いつからか、
兄者フリードリヒ.. ぷっ。までがついてくるようになったからである。
尋ねたところによると、ルチアの剣術技量と経歴をセリエから聞いた彼が、
教えを乞うために、頭まで下げてきたという。
 
(おかげで、弟君とのおやつタイムが消えちまったわ。クソが!)
 
廃棄物同然といえど、エサは与えない。客間はコロナとクラーナに任せて、
ルチアは薔薇園の開放地にて、兄を相手に剣術指南を始める。
断る選択肢もあったが、弟君まで外出を止められてはどうしようもない。
彼女の出で立ちは乗馬服をベースに、上下白のポロシャツ&キュロット、
髪は念のため(バレないように)、編み上げてもらっている。
あとルチアが二人きりを嫌がったため、セリエも雑用係で同伴。
責任云々いわれたら、彼女に拒否権はあり得ない。
 
「伯爵邸での立ち回り、小手先技【初歩】を学びたいとのお話でしたね。
 あれは薔薇騎士伝統芸でもありますので、私がお教えするのも、
 おかしな成り行きなのですが」
 
そこまで聞いて彼は、やはり彼女がローゼンハイマー家の縁者なのかと、
詮索せずにいられなかった。やがて周囲を見渡したルチアは、
ほぼ隣合った間隔に並ぶ切り株に乗り、フリードリヒにも、
もう片方に乗るよう指示する。その後、言われるがままに剣を合わせる。
互いの肘は伸びきるまでもなく、屈曲するだけの近い間合いだった。
 
「まずは、このまま剣を離さずに押したり引いたりしましょうか。
 切り株から相手を落したほうが勝ち、というコトで」
   
単純なルールなので、フリードリヒは最初から駆け引き全開である。
ただ、慣れないうちの常で、バランスの重心が剣を持つ腕から手に集中する。
意識すべきは切り株に張りついた足裏から膝下という理屈が分かっていない。
 
「話にならんな」
  
しばらく好き勝手させておいた頃合を見計らい、
ルチアは苦も無く彼を押し出て、切り株の向こうに尻餅をつかせた。
ふたたび繰り返し、幾度となく、地面に落したあとでルチアは思う。
  
(あーこれ、楽でいいわ。ずっと、これやっていたいわ)
 
そんな不穏当が頭を過ぎったとき、今回に限って起き上がってこない様子に、
彼の汚れたズボンと、心なし涙に滲む表情が見て取れた。
一呼吸おいて立とうとするフリードリヒを遮り、ルチアは休憩を告げた。
セリエはルチアに、次いでフリードリヒにも汗拭きを手渡す。
ふとルチアが、ずっと気に掛かっていたコトをセリエに問い質す。
 
「そういえば、舞踏会で弟君を拉致ろうとした狼藉者。何だったわけ?」
 
かなり間を空け呆然としていたフリードリヒだったが、
自分に尋ねられたような気がしてルチアを見上げるも、意に介さず、
セリエが把握しているだけの情報を告げていく。
  
「事件当夜、ハインリヒ様(弟君)から留学についてお聞き及びでしたね。
 その定員枠について、御学友の親御さんから実力行使があったようです。
 御学友自身が関与していなかったのと、ハインリヒ様とは近しい間柄だった
 との話もありますので、本人の前では控えておりました」
 
「なっ..!ウェルス伯爵家の一部で秘匿している話を、どうしてお前が?」
  
困惑するフリードリヒだったが、沈黙するセリエに代わり、ルチアが答える。
 
「邸の使用人、出入りの御用聞きにも耳目あり、と言ったところですよ。
 御心配なさらず、口止めは致しますから」
  
おそらく子供たちまで波及しない、大人の話し合いで解決した案件なのだろう。
そうでなければ、薔薇邸に彼らが訪ねてくるはずもないし、
ルチアが興味を持つ問題でもなかった。
  
休憩を終え、汗ひと頻りが乾いたところで、ルチアは前半までと趣きの違う、
(彼女にとっての)遊びを提案する。ひと抱えの薪を束にしたものを、
ひとつ、ふたつ、みっつ、直列に並べておいて、まずは彼女の模範指導。
 
(この程度なら、助走いらないな)
 
帯剣を外し置き、その場から薪山の向こう目指して飛び込んだ。
地面に両手をついて頭を庇いながら、ごろんと転がってみせる。
いわゆる飛込み前回り受身。次、フリードリヒに促す。これは難なくクリア。
 
「(ふ.. ん、右回りか)んじゃ、同じやつ左回りで」
 
「は?」
 
「は?じゃねぇ。相手が毎度、右側に(馬から)落してくれると思ってンのか」
 
想像以上にぎこちなく、2度3度、うまく転がれずに激突を繰り返すも、
ようやく形になってきたとき、さらにルチアがハードルをあげる。
薪山を3つから6つに増やしたところで、彼女本人も生唾を飲む。
後ろの二人に気取られぬよう向き直り、フリードリヒに告げる。
 
「ざっと10.5feet(約3.5m)ってところだな。じゃあ、飛んで」
  
フリードリヒは無言。薪山の向こうを見据えるも、顔から薪に突っ込む未来しか
頭を過ぎらない。かなりの時間が経過して、ルチアの嘆息が聞こえた。
 
「1回しかやらないから、よく見てろ。助走は、させてもらうぞ」
  
ロングストライドで、跳ねるような助走から、薪山の上を飛び越えていく。
そして、フリードリヒがぐうの音も出なかったのは、
その前の薪山3つのときとは逆回転で、受身を取ったことだった。
続いて、フリードリヒのターン。同じように助走を加えるも、歩幅が小さく、
踏み切り直前になって足が合わず、躊躇してしまう。次も、またその次も。
 
「見ちゃいられないな。おい、セリやんにも出来ること、教えてやれよ」
 
「え.. スカート穿いたままやるんですか?
 '80年代の民放深夜番組みたいで、嫌なんですけど」
 
「いいから、テメーは(坊ちゃ仮面を連れて来た)責任取れ!」
 
乗馬スタイルに身を固めたルチアと違い、セリエはメイド服着用のままである。
何のかんの言いながら、やる気は満々。
ルチアはフリードリヒの肩を抱いてヤンキー座り。視点を下げてセリエを送る。
 
「い、行きますよ(めちゃくちゃ嫌そう)」
  
ルチアと同じく、長い歩幅からの踏み切り。ただし、彼女よりも高く飛んだ。
やがて自由落下に切り替わり、スカートが風を受けて膨らんだとき、
 
「おおっ♡」ルチア
 
「おっと」セリエ
 
後ろ手でスカートを押さえつつ、ギャラリーの期待を阻止。
続いて頭から落ちてくるセリエに、緩衝材も何もない剥きだしの地面が迫る。
 
「おいっ!危ないっ!」
  
思わず叫んだフリードリヒとは裏腹に、セリエは当たり前のように、
残る一方の手で地面を叩いて、身体を一回転させた。
 
「べつに見られたって、どうってコトないですけど。
 格の違いは伝えたかったんで」
 
「ぎゃははっ!セリやん、体育だけは優等生だからな」
 
再び、フリードリヒの番。相変わらず、踏み切り直前で立ち止まり、
やけに硬直が長い。遠くから涼を帯びた風に乗って、晩鐘が聞こえる。
その鐘の音に合わせて、ルチアも、セリエも、眼を閉じて祈りを捧げる。
 
「今日は、此処までだな。気にすることはない。
 一朝一夕で終わったら、それは修行とは言わない」
 
鐘が鳴り止んだとき、ルチアはそう呟いて、
彼の肩に労いの手を置くでもなく、邸へと踵を返した。
  
 
翌日の午後、悠長に客間でおやつの刻を待つルチアを、コロナがいじってきた。
 
「ほへー、最近は賭けカードやらないと思ってたら、
 坊ちゃ仮面くんが花の水遣りしてくれてるんだ?」
 
「稽古前の柔軟体操代わりだろ。花との会話は、情操教育にも役立つ───」
 以降、中身を伴わない会話なので省略する。
  
おやつの時間を迎え、クラーナが"あつ草"クッキー(量産型)と、
ハーブティーを持ってくる。それまで兄にくっついていて弟君も、
ルチアたちのところへやって来た。
客間の雰囲気がいっぺ.. じゃなくて、彼女たちの言葉遣いが一変する。
 
「ルチアお姉様、そろそろお稽古じゃありませんコト?
 本日は、俺.. 私も御一緒して差し上げようかしら」
  
「ついて来られても支障ないと思われますが、サラシをお巻きあそばして、
 御自慢のカボチャを潰して下さいませんこと?コロナさん」
  
無意味な会話を交わしながら、クラーナがルチアの馬毛を編み込み終了。
戦闘服に身を包んで薔薇園へと、足取りは重い。
コロナは客間に居残り、双眼鏡での観賞を愉しむようだ。
 
「お嬢様、私は食器類の片付けなど御座いますから」
 
「セリやん、テメーはさっさとついて来るんだよ」
  
薔薇の庭では、水遣りを終えたフリードリヒが自ら薪山を並べて、
受身の練習を繰り返していた。ただし、薪山の数は昨日の半分。
出来るところから、確実に。
すでに汗と泥にまみれていた彼と、ルチアは切り株の上で力比べ。
依然として、1本も取れない状況が続く。
そしてまた、休憩時間にそれとなく、剣術稽古の意図を探ってみる。
  
「薪山を並べての鍛錬なら、伯爵邸の庭でも出来るだろう?
 切り株のやつだって、自分で考える時間も必要だと思う。ほら、こうやって」
  
剣を抜いた切っ先を、立ち合い相手の剣でなく、近場の大樹に当てて佇む。
人間の力で、それがどうなる物でもない。ただ、考え巡らすことは出来る。
大樹の幹から落ちてくる枝葉は、何ら干渉されないのを悟らせるかのように、
静かに舞い降らせるだけである。フリードリヒは気持ちを整理するつもりで、
自分のことを少し、口にしてみた。
  
「私が内戦を経験したのは、10歳の頃だった。
 あれは、経験したってものじゃないな。父伯に従って盟主領を離れ、
 戦禍の届かない山奥の別邸で、ただ、時の通り過ぎるのを待っていた。
 軍人学校に通い出してからも、基本的な剣術や兵法は習ったものの、
 実践的なものは免除、免除、免除で、召集参陣となれば、
 こんな私でも中隊を率いるだけの階級が与えられている。だが現実はどうだ?
 内戦時代は小隊長だったルチア殿にも、まるで歯が立たないではないか」
 
「軍の物理的な攻撃力と、差配する能力は別物だろう。気にすんな」
 
フリードリヒに備わる軍統率力を認めているワケではないが、置いといて。
くすぶる話は、これだけでなかったようで、鬱積した奔流は、まだまだ続く。
 
「実力もなく偉ぶるなど、私には出来ない。
 素性を隠して街ギルドに下りてくる仕事を請けたりもしているのだが、
 そこで悉く邪魔立てしてくる女盗賊どもに1度も勝てず、
 悔しくて、悔しくて───」
  
「あーそれが馬毛とカボチャ女か。(盗賊じゃねーだろ、クソが)」
  
ただ、フリードリヒの様子が尋常でなかった。座り込む地べたの土を掻き毟り、
目は血走って、噴き出さんばかり。わなわな震える肩も、はっきりと分かる。
 
「女に負けるのが、そんなに悔しいかね。現に私に何度も転がされて」
 
何か他に特別な感情も入り混じっているようで、彼が言葉を濁していると、
喋りたくてうずうず状態だったセリエが、独自諜報網の成果を吐き出してきた。
 
「馬から落されたり、容赦なく打ち据えられたりの身体的損傷も然る事ながら、
 それ自体は数週間で治癒できています。ただ1点、
 海商貿易に関する重要書類奪還(街ギルド目線)を請け負ったさい、
 ※鉄のメイド騎士団TQ01/フーコーの手紙
 女盗賊どもの手に落ちて、口にするのも憚られる部位の皮を噛み千切られて、
 男性として地獄の苦しみを味わったらしいです。
 その他の外傷は治るものの、そこだけ塞がっては開き、を繰り返して、
 この程ようやく、自分で擦っても傷口が開かなくなったみたいですよ」
 
「あーうん、私(女性)には分かんない話だったわ(すっとぼけ)」
 
「オルガ!クリスチナ!もしくは、メイド長ヴィクトリアあああ!」
 ⇒ 真相把握していると思われる、伯爵邸世話係。
  
その後、恥を雪ぐかのように稽古へ没頭するフリードリヒ。
それでも切り株ではルチアに落とされ、何となく飛べる気がした薪山6つでは、
顔から突っ込んで、傷口をセリエに縫われる一幕あり。そして、晩鐘。
厳かな鐘の音がそうさせたのか、よそ行きの仮面を取り去って、
喜怒哀楽をぶちまけた高揚感によるものか、よくわからない。
茜射す別れ際に、彼はルチアの背に向かい、秘めていた感情を吐露していた。
  
「不躾な願いを聞いて下さり、感謝の念が尽きません。
 いつになるか分かりませんが、女盗賊らを打ち倒し、本懐を遂げた日には、
 あなたに求婚する資格を与えていただきたい」
  
背を向けたまま、ルチアは足を止めていた。振り返りはしない。
訝しく思ったセリエが彼女を見遣ると、
何処か見憶えある表情のまま、自らの意志で立ち止まったのでなく、
硬直しているのだと理解する。
つい最近、確かに見た表情について、すぐにセリエは思い当たる。
 
(なるほど、賭けカードに負けたときの顔だわ。あれは)
  
 
次回に稽古を申し合わせた日、二人にとって都合がよいコトに、
所用のため辞退する旨の意向が双方に告げられる。
伯爵家は弟君ハインリヒが、兄直筆のメッセージを薔薇邸に持参してきた。
いっぽうルチア側は、弟君を介してメイド方のクラーナが、
主たちの不在を丁重に詫びることになる。
その頃、両者は仮面(面頬)越しに、まったく別の場所で出会っていた。
  
「不逞女盗賊どもめ!今日こそ成敗してくれるっ!」
 坊ちゃ仮面(マスケス着装)Lv.16(前回より+3)
 街ギルド請負内容は、家章の詐欺捏造主犯であるミネルヴァの誅殺、
 または彼女に加担する敵性勢力の排除。
  
「うぎゃあああーっ!」ルチア暴走
 
「おいっ、テメェ、待て!こらっ!」コロナ置き去り
  
翻って、鉄のメイド騎士団受注内容は、
貴族院より命を狙われる家章管理官ミネルヴァの保護ならびに敵性勢力排除。
このときの撃ち合い、いつもより濃く激しく、
落馬させられた坊ちゃ仮面は通常全治数週間だったところ、
年内数ヶ月間の介護生活を余儀なくされたらしい。
 
よって、しばらくルチア×フリードリヒの稽古の話は書かずに済む。
 
  • 2020.09.05 Saturday
  • 00:00

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