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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ19/雷雲−La Tempesta−

  

TQ配達品=シャベル、つるはし、もっこ他
TQ配達先=王都から谷の村へ
2nd Quest=ミネルヴァ捕捉。
      ルチアが先行して敵対勢力(2名)を排除、
      コロナとラファエラは土木道具一式を随時輸送。
 

雷雲−La Tempesta−(後編)

 
翌日、サシャが熱を出した。幸い、軽い風邪の症状だったので、
タマラが炊き出し部隊に合流し、賄い系スキル不足なミネルヴァが看病に残った。
卵で溶いたオートミール粥(タマラ特製)を食べ、ひと晩寝て起きる頃には、
もうすっかり回復していた。ところが───
  
「おい、タマラの家で泊めてやってる娘っこ、もう3日も見てないぞ!
 サシャちゃん、治ってるんだろ?あいつ、何やってンだよ」
  
残土処理場で年配の村衆から問い質されるも、二コラ自身、
次に会ったら求婚、みたいな自縄自縛も相まって、しばらく訪ねていなかった。
いっぽう、炊き出し場のタマラも、割り当ての食事を自宅に持って帰ろうとすると、
お局衆から激しい口調で咎められる。
 
「アンタやサシャちゃんならまだしも、あの余所者にまで食わしてやる分は無いよ。
 働かざる者、食うべからずだ!食べ物だって、いつまでもありゃしないからね!」
  
そんな感じで、タマラも自分の食べ物を幾らか融通しながらも、
村人の風当たりを、それとなく伝えたりするのだが、ミネルヴァは気にも留めない。
 
「あと1日、あと1日だけだからっ!」
 
離れに籠りきりになり、朝から晩まで手作業に励んでいる。
タマラには、彼女の行動の意味が見当もつかない。そしてミネルヴァも、
自分が何者であるのか、何をしているのか、王都への発送を済ませるまでは、
明かす訳にいかなかった。
 
 オーベルタール家章として知られる、"雷雲ラ・テンペスタ"。
 天空に広がる雲海と迫り来る稲妻の意匠が、裏付けになってくれる。
 造船所が持つ山林利権と寸断された道路状況を訴えることが先決だ。
 オーベルタールが翻意してもいい、王都に牛耳られた家章管理官でなく、
 私を必要としてくれる貴族が手を差し伸べてくれるかも知れない。
 
 そのためには、"雷雲"を継ぐ者が、この谷に存在する事実を認めさせ、
 なおかつ、庶子である意志を主張しなければならない。そのためには───!
 
山林間道を往来する狩人に託された家章登録申請書は、1通の手紙とともに、
数日後、王都貴族院に届けられた。申請者がグランベルガー家とあれば、
まず家督継承問題で頭を悩ませる大貴族たちが苛立ちを募らせる。
ただ、申請書には、これまでと異なる部分があった。
それにより、怒りを露わにした貴族高官は困惑し、振り上げた拳の所在を躊躇う。
家章管理官として、グランベルガーのサインが欠落していたためである。
 
「初歩的過ぎるミスか!このまま破棄してしまえば、貴族院に登録されない」
 
「そんなもの、再申請されれば終わる話ではないか」
 
喧々囂々の院内で、添えられていた手紙に興味を示す者もあった。
内容は、ほぼ谷の村で起きている災害に対する陳情、そして、
或る若い男性騎士の照会を求める一文が目についた。
 
「どう、見る?」
 
「どうって、オーベルタール造船の醜聞としか読み取れませんな」
 
冷やかし半分に完結させる者も多数を占めたが、ひとり、
家章デザインの追加部分を拾いあげて、主家に持ち帰る出席者がいた。
ローゼンハイマー諜報部に所属する老紳士であり、
経営戦略室担当立会いのもと、総帥サンドラの耳に入ることになる。
 
 "雷雲ラ・テンペスタ"の追加部分とは、
 稲妻の迫る街に配置された、若い男性騎士と赤ちゃんを抱いた母親。
 
「騎士団駐屯地には、よくある話でしょうな。
 貴族院でも、そこまでは辿り着いていたようですが」
  
老紳士の推量に、サンドラは疑念を挟まない。
ただ、新たな家章の申請を望まない点を勘案すれば、
オーベルタール家の責任と義務を訴えるのでなく、純粋に、
身に降りかかっている窮状の打開でしかないのだろう。
騎士に関しては、事務的に照会手続きをとる他ないと思われる。
 
「道路復旧を支援した場合の損益について。見積もりでなく、大局観で」
  
サンドラに意見を請われた経営戦略室の人間は、ひとまず、許容の意を示した。
※最高顧問であるモニカは、現在国外出向中。
谷の村の資源に関して、手中に収めておくべきとの判断である。
災害復旧損益のほうは、人と物を投入しつつ、見積もりを加えていくしかない。
 
「まずは、現状の地権者であるオーベルタール造船との話し合いね」
 
 
その日のうちに、オーベルタール造船会長との会談が設定される。
すべては、王都要人の動向を把握している諜報部門の為せる技である。
使い方によっては超危険。相手宿泊先まで、一方的に距離を詰める手口と、
当日予定を白紙化させるまでが、諜報部"血塗られた薔薇"の仕事範囲。
 
「復旧作業への対応を断られたとか」
 
「近頃は船の建造も、めっきり減りましてな。植林は歳月もかかるもので、
 押さえておくのはよいのですが、北の谷は山越えで距離もある。
 それに加えて山崩れに出費を強いられては、商売になりませんよ」
 
(先代の頃みたいな小規模合弁経営から寡占化を進めたにもかかわらず、
 船造りしか考えられないから、需要の浮き沈みについていけなくなるのだわ)
 
山林伐採が崩落の一因であるとの意見もあった。秩序、無秩序は関係ない。
植林目的で根起こしするため、勾配土の結びつきを脆弱にしたとの報告だった。
 
「まさか、ローゼンハイマー総帥ともあろう方が、
 人情に絆されて土木工事にカネを出せ、とも言いますまい。用件を伺いたい」
 
「ちょうど伐採資源を手に入れたいと考えておりました。
 不良資産化を懸念されておられるようでしたら、
 それなりの値段で購入させていただきたいと。
 道路復旧も支援しますので、1度、早急に話し合いたいと訪ねて参りました」
 
渡りに船の申し出だった。だが、それ故に商売人として慎重にもなる。
簡単には飛びつかない。まずは、外堀から真意を引き出そうと試みる。
 
「我が造船所の場合は運搬材も大掛かりなものになるうえ、
 度々の工事費用を捻出していては、どう見積もりしても採算を合わせられない。
 そこのところの考えを、お聞かせ願いたいですな」
  
「災害など起こらないのが最善ですが、今回は騎士団の練兵と捉えています。
 王都内戦を経験した者は少なからず在籍しておりますが、所詮は内戦。
 騎士団外征時代と異なり、工兵部隊の絶対経験数不足を補う思惑からです。
 もちろん、山林資源を提供していただける谷の村衆との融和も、念頭に」
 
会長は、しばし考え込む。サンドラの言葉に、それらしい瑕疵はない。
が、詰まるところ、お抱え騎士団への過分な投資でもある。
そこは商売人により、比重を違える部分だった。
決断しかねるオーベルタール会長は、より核心の話を持ち出す。
彼女の答えが嘘か真実かは、それを得たあとの判断である。
  
「有り難い話ですな。正直、造船業も振るわず、持て余していましたから。
 ところで、新造船の発注はローゼンハイマー家でも控えておられたはず。
 街道復旧予算も含めて、あの量の木材は持て余すのではありませんかな?」
  
サンドラは、いつもの、折り曲げた人差し指を下唇に当て、
一瞬の考え込む仕草を交えながら、彼の疑問に答える。
  
「港で捌けなくなってきた船荷を預けておく、集積ベースが拡張されるそうです。
 その倉庫埠頭と桟橋を繋ぐ橋梁建設にでも使えれば、と考えまして」
  
入札には多くの資本家が共同企業体を構築し、名乗りをあげるに違いない。
オーベルタール会長も腹のうちに思うところあるのだろう。
ひとまず、サンドラに祝福と祈りの言葉を贈る。そして、腹が決まった。
 
(所詮は、お飾りで総帥に祭り上げられた二十歳そこそこの小娘か。
 数100トンの車輌往来を想定する橋梁が、木造で間に合うはずなかろう!)
 
商売は互いの利益になることが前提であり、望ましいといえる。
だが時として、利潤の多寡に縛られて、まとまらない話が往々としてあった。
受けておいて損がない申し出にもかかわらず、まとまらないのは、
自分方の利益よりも相手方の利益が最大化してしまう懸念が障害となってしまう。
いまの会話で、明らかに、サンドラが隙をみせた。
 
「それでは会長、植林資源の移譲につきましては、よしなにお願いします」
  
「こちらこそ、山崩れ事故には心を痛めておりました。
 復旧作業の無事を、お祈りします」
 
商談はまとまった。会長の言葉が釈然としないが、それはいい。
思いがけず、会談が長引いたのはサンドラにとって痛恨事だった。
道路が寸断されているせいで、ミネルヴァに差し向けられた貴族院の追っ手も、
そう易々と谷に辿り着けるとは思えない。
とりあえず、ルチアと、直轄騎士団から先遣隊数名を放ってある。
此処は、彼女たちを信じるしかない。
オーベルタール会長の宿泊先を去る前に、もう1点、確認しておくことがあった。
退出時、ドアノブに手を掛けた状態で振り返りつつ、話を続ける。
  
「オーベルタール私設騎士団に所属しているはずの、男性についてですが」
 
「おお、事前に貴族院から打診されていた件ですな。
 騎士団員を間引いたおりに、工場労働へ振り替えましたが、健在だそうです。
 妻ひとり、つい先日、ふたりめの子供が生まれたらしいが」
 
「死んでしまえ」
 
「は?」
  
サンドラは、商用で聞き齧った異国の言葉で呪詛を吐いた。
その後、独り言を強調しつつ、営業で使い倒した笑みをみせる。
トップ会談終了。残るはミネルヴァ暗殺団を排除すれば、心置きなく土方作業。
 
 
王都から北にはずれる街道筋を、所属の異なる2騎が、ほぼ並走していた。
一方はローゼンハイマー薔薇騎士2ベロニカ。
筆頭騎士アグネスが長期離脱するわけにもいかないので、彼女が出張ってきた。
軽装に留めているが、追捕指令を受けているため、戦闘モード。
かたや漆黒のカタフラクトに騎乗する謎のメイド女。お気にの面頬が怪しさ抜群。
 
「よお、ベロ。災害復旧ボランティアに行くんだって?
 お前、ドカタ出来ンのかよ」
 
「ベロゆうな。旧邸の薔薇園の掘り替え、全部、私らでやったんだぞ」
 
わりと熟練スコップ使いだった件。
あと先遣隊に志願して、往路を急ぐのも理由があった。さっさと現地入り、
後発が着くまでに谷男の顔面偏差値を格付けする野望がダダ漏れ。
男騎士団が女騎士団になったところで
出会いを求めるどす黒い部分は変わらない。
 
「ロンとエルが輸送隊に回ったから、追っ手の処理はベロと連携じゃん?
 足引っ張ンなよ、2!」
 
「あ゛?アグネスが経年劣化すれば、私が筆頭騎士拝命だぞ。ほざいてろ」
 
「お前、ギィちゃんと同期だろ。何歳まで生きるつもりだよ?」
  
「目標100歳。さすがに勝てンだろ」
  
 無敵モード並みに設定がおかしい。
 
「勤労と納税者の鑑だな。孫世代に追い抜かれる未来しか見えねーわ」
  
そんなやり取りのうちに馬を駆っていると、やたら鈍臭い2騎が前方に見える。
相手もまた並走しているために、すこぶる邪魔くさい。
 
「クソが!並んで走ンな(自分、棚上げ)。いっちょ、煽るか」
 
ベロニカの制止も聞き流し、ルチアがカタクラフトを先行させる。
前脚肩口に鞭を入れ、軽い嘶きを聞かせながら中央をこじ開けていく過程で、
次第に前を走る騎手の姿が露わになる。何事かと前2人が振り返ったとき、
すでにルチアは後方へ下がりつつあった。
ふたたびベロニカと並んで、第一目標発見を報せる。
  
「わははっ、ミネルヴァ追討部隊を見つけた!
 サクッと戦闘不能にして終わらせるぞ」
 
「ちょっと待て!何で、お前にそれが分かる?」
 
「何で、って」
  
前を走っていたのは、此処数ヶ月以来の宿敵である坊ちゃ仮面Lv.13。
肩を並べるのは、だいたい似たような技量と思しき傭兵+1。
  
「王都の外で遭遇したときは、宣戦布告なしに攻撃していいコトになってる。
 推定、いいとこ(貴族)の坊ちゃんらしいから、殺さずに馬から落としとけ!」
 
「マジか。あとで文句言われても、知らんからな!」
  
坊ちゃ仮面のほうもルチアを視認したらしく(面頬でなくメイド服で)、
1on1の形に馬足を緩め、外外へ展開してくる。
まず開戦の鬨をあげたのはベロニカ。傭兵騎手の男に剣を合わせた次の瞬間、
一撃のもとに向こう側へ弾き飛ばしてしまう。
落馬時に打ち所が悪ければ、お亡くなりになっているかも。
  
「小手先技【初歩】かよ。そんなだから、ギィちゃんに勝てねーんだよ」
 
「変なタグつけンな」
  
ベロニカをからかったルチアは、一転、坊ちゃ仮面に馬を寄せ、
同じように剣を合わせる。ひと呼吸を置き、
先程とは真逆に、坊ちゃ仮面を手前に引いて落とす。
引いたぶん、最悪の状況で四肢骨折程度で済むのではないかと思われる。
胸中穏やかでないのはベロニカだった。
ハントグリフ(小手先技)は、ぶっ飛ばすより引き込むほうが難易度は高い。
いまのを使いこなせるのは、筆頭騎士であるアグネスくらいだろう。
お家芸のローゼンハイマーを横目に、あっさりパクってみせるのだから、
ベロニカは、あからさまに言葉少なになった。
そして谷が近づくにつれ、最大限の譲歩案をルチアに告げる。
  
「ルチア、さ。今晩、一緒のテントで寝ようぜ」
 
「ざけんな。どいつもこいつも、貝遊びばかりしやがって!」
 
「違えよ!つか、貝遊びって何?」
 
ベロニカにしてみれば、顔面格付けよりも、
アグネスの剣技の秘密を探りたい一心である。
何か、ルチアとベロニカ、初めてのマッチングのわりに仲がよさそう。
 
そして翌朝早く、崩落土の向こうにオーベルタールの雷雲騎士団でなく、
ローゼンハイマーの薔薇騎士団が投入されつつあるのを確認したミネルヴァは、
ギリギリのタイミングで谷を離れようと、山歩き衆とともに旅立つ。
間際、二コラに遇い、復旧の目処が立ったことを喜びあう。
別れを惜しんだあと、彼が残土処理場でなく、一路、
タマラの家へ向かったのをみて、祝福を口にした。
  
 
後日談。20数年先の話になるが、貿易港第1〜3埠頭と集積倉庫群新埠頭を繋ぐ、
大規模な石積みの橋が架かった。ローゼンハイマー含む、合弁事業体の出資による。
便宜上、「石」表記であるが、モルタル打設による人工石群が使用されている。
北の谷で育てられた伐採資源は、これら"失われた技術"復刻事業の一環として、
数万枚におよぶ型枠材に姿を変えて、貢献したという。
  
  • 2020.08.08 Saturday
  • 00:00

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