Calender

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

Categories

Archives

Recent Entries

反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ19/雷雲−La Tempesta−

  

TQ配達品=
TQ配達先=
2nd Quest=ミネルヴァの捜索ならびに保護
 

雷雲ーLa Tempesta−(前編)

 

早朝、出立の準備を終えたミネルヴァは、一宿一飯の恩を受けた家族と、
別れを惜しんでいた。いまでも彼女の腰にしがみついて離れないのは、
5歳になる娘のサシャである。やっとの思いで引き剥がした母親のタマラは、
背中越しに抱きとめながら、手を振るよう促している。
  
(行き止まりの村だとは思わなかった。でも、温かい人たちだったなぁ)
  
村と街道を繋ぐ唯一の峠道を登り始めたミネルヴァは、程なく首を傾げ、
お昼前には、元の村へと戻っていた。
  
「いや、それが、その.. 道に迷っちゃったみたいで」
 
「あん?峠の一本道で、どうやったら迷えるんだよ」
  
再会した村人と、そんな問答をしていた矢先、峠から走り降りてくる男衆が、
けたたましく叫びたてては、家々を回っている。
 
「たっ、大変だ!峠道が地滑りで遮断されてる!」
  
道に迷ったのでなく、無くなっていたとするのが正解だった。
斜面に生えていた低木野草が、そのままの状態で滑ってきたため、
土地勘のない者がみれば、山崩れしたとは思いもよらなかったらしい。
 
「そういえば、明け方近くだったか、ものすごい轟音が響いてたよなあ」
 
「ああ、崩壊した斜面は此処から反対側にあるから、山颪と勘違いしてたよ」
  
村人たちが外に出て、おしゃべりする最中にも、
ミネルヴァは陸の孤島と化した、どんつき村の非常事態を徐々に実感していく。
幸いにも、昨夜お世話になったサシャ母娘の家に泊めてもらえる事になったが、
村ではライフラインの復旧に、総出で乗り出す算段をしていた。
とりあえず連鎖崩落の危険があるため、その日の午後は作業道具の手入れと供出、
明日から土砂潅木の除去と、破壊された峠道の復旧が始まる。
女の身でありながら、若い健康体なミネルヴァも、頭数として期待されていた。
  
  
夕刻、食事が済んだあとで、同じ谷に住む二コラが訪ねてくる。
やはり昨夕も、同じ頃合に来て、タマラとどこか私的な会話をやり取りするので、
ミネルヴァとしては、少し居づらさを感じたのを思い出す。
その日もサシャを誘って、自分用にあてがわれた離れのログハウスに引き込む。
 
(5歳になる娘ひとりと言っても、タマラは私と同い年くらいなんだよね)
  
旦那様の話は聞かない。熱心に通ってくるところを見れば、
二コラとタマラは、そういう関係というか、位置づけなのだと想像がつく。
小さな子供相手にゴシップ談義しても仕方ないので、ミネルヴァは黒板を取り出し、
ちょっとだけ得意な、お絵描きを披露しながら、寝る時間までを遊び潰していた。
※もう少し得意な針金細工は、サシャの年齢では危ないので仕舞い込んだまま。
やがて窓越しに、二コラが帰るのを確認して、サシャを送り届けようとしたとき、
彼女の肩に掛かっているスカーフの模様が目に止まる。
 
(街に迫る雲海と雷の意匠───ラ・テンペスタだ!)
  
サシャを寝かしつけた後で、留まるよう言い置いていたミネルヴァの元へ、
タマラが戻ってくる。少し時間が空いたのは、二コラが届けてくれたものだろう、
温めのハーブティーを作っていたからか。
  
「普段から、いろいろ持ってきてくれるんだけどね。
 しばらく荷馬車の流通が滞っちゃうから、食べ物の消費を節制しよう、って」
  
峠道が遮断されても、猟師らが利用する間道から食糧調達は可能である。
ただ、女子供には到底、往来出来るような状態でなく、男性であっても、
不慣れな者であれば獣害や遭難の危険をともなう。
何より、交易量が山越えのために減らした、背嚢の中身でしかなくなる。
  
「まさか、あの意匠に気づく人がいるなんて」
  
唐突に話題を変えたタマラの口調は、驚きの他に、少なからず、
話し相手としての愉しさを含んでいるように思われた。
 
「あのっ、あのっ、サシャちゃんのお父さんって、もしかして..
 あれ?5歳だったら、内戦時と年数が合わなくない?」
  
ミネルヴァの推量に、タマラは押し殺した笑いで苦しそう。
  
「半分だけ、正解ね。騎士隊の駐留は、何も戦争時だけとは限らないわ」
  
村は林業を生業としていた。むしろ、産業それだけと言ってもいい。
主に貿易船を建造するために木材供出が割り当てられ、四杯が海に浮かぶ。
その利権を一手に握ったのが、"雷雲(ラ・テンペスタ)"を家章とする、
オーベルタール家だった。
 
「昔は、財を成した商人が貴族を名乗り、私設騎士団も編成したというから、
 サシャちゃん、良家の娘さんポジなんじゃ?」
 
「やあねぇ!こんな田舎の谷に派遣されてくる騎士様なんて、直系でなく、
 傍系でもなくて、領内から集められた一般家庭出身者だわよ」
 
身も蓋もなかった。前回がキースリング子爵直系だっただけに、妄想が捗った。
  
「それじゃあ、サシャちゃんが生まれた馴れ初めってのは」
  
「この谷では、山崩れって言うほど珍しくないのよ。
 一時期、すっごく伐採してたからね。そのたびに、王都から騎士団が来て、
 復旧工事していたわ。ほとんどは野営だったりするのだけど、
 ミネルヴァが泊まっている離れなんかも、騎士さんたちに開放してたのね」
 
それが、つまりその、約7年前の山崩れという話。
四面ある農林資源のうち、四半分ごとに出荷して、現在は植林している段階。
此処5〜6年は、王都から何の音沙汰もない状況が続いているという。
  
「今度の山崩れで、またオーベルタール家から復旧人足が派遣されるかもだね。
 もしかしたら、サシャちゃんのお父さんも」
  
「多分、それはないかも。軍用船も貿易船も、いま殆ど造られてないし、
 植林に投資したのはオーベルタールだけど、どれも買値はついてないらしいわ。
 最悪、もう土砂除去作業を手伝ってくれないかも知れない」
 
「その一般市民である騎士様は、さ。サシャが生まれたことを?」
 
「そりゃあ、知ってるでしょう。谷を去るとき、私のお腹は大きくなってたもの。
 名前だって、ちゃんと手紙に書いて送ったわ。届いてるかどうか知らないけど」
 
つまるところ、サシャが生まれてから、一度も会いに来ない。
手紙も寄越さない。タマラからの一方通行便は、4通目からあきらめた模様。
悲惨っぽい話のわりに、さばけた表情を絶やさない彼女に、何となく、
二コラの姿が寄り添ってみえるのが、歯痒かった。
 
(ダメだ、こりゃ)
 
 
翌日早朝から、復旧工事が開始される。
とりあえず、そのまま滑り落ちてきた潅木などを伐採し、薪燃料などに消費する。
およそ20数人がかりで3日を費やす。そこから初めて、土砂搬出作業となる。
ミネルヴァは後方で、除去されてくる残土を谷まで運んで投棄する役回り。
途中運搬は農耕牛馬を使うが、麻袋入りの土を捨てるのは人力なので、
女手では、かなりの重労働だった。
最前線は更に危険地帯で、崩落土の乗った現地盤が不明瞭なため、
作業人夫が二次崩落で谷底へ引きずり込まれないよう、慎重にも慎重を期していた。
これでは、あと何週間かかるか分かったものではない。
  
「いやー村衆の心が荒んでいくのが、言葉遣いの端々から察せられるわ」
  
タマラは幼い娘持ちのシングル母であるため、更なる後方での炊き出し係だった。
いうほど糧秣在庫も潤沢ではないので、愚痴しかでない口なら、
すでに会話も最小限みたいな状態になっているらしい。
食糧も完全に寸断されたわけではないものの、日増しに心許なくなっていく。
 
(ハーブティー、だんだん薄くなっていくなぁ)
  
そんな感じで、いろいろ気づくところが出てきた。
  
  
すでに何日目か、指折り数えるのも面倒になってきた頃、
ミネルヴァのいる後方ベースまで残土輸送してきた二コラと、
顔を合わせる機会があった。そのまま木陰で小休止となる。
山崩れが起きた日の夕から、タマラに会いに来なくなっていたのを気にかけていた。
  
「だって、家に帰ったら倒れ込むように寝る毎日だったし」
  
少なくとも、彼はミネルヴァのことを憶えていた。タマラを前にすると、
いまなお緊張でしゃべるのに手一杯で、周囲の者に気が回らなくなる。
そういって、二コラは詫びた。邪魔者扱いされていたのではないと分かっただけ、
かなり気持ちが楽になったのを感じる。
 
「子供の頃は、そんなのじゃなかった。まだタマラの両親も生きててさ。
 家族ぐるみの付き合いだったから、むしろ女性と見なしてなかったとゆうか。
 だから、さ。7年前、復旧作業に来た私設騎士団の男に、奪われた。
 サシャが生まれて、タマラに母性を感じたときかな.. 彼女のことが、
 好きなんだって気づいた」
  
(タマラ以外の人間には、わりと饒舌だコイツ)
  
聞き上手に徹するつもりだったが、黙っていれば何となく、
タマラとの仲を取り持てと言われているようで、胸の内がざわつく。
果てしない肉体労働を経て、焦燥しきっていたミネルヴァは、
いつ支援に来るかも分からない、オーベルタール騎士団の話を持ち上げてみた。
 
「実際のところ、駆けつけるとすればサシャの父親も混じってる可能性あるわけで、
 もしタマラと再会なんかしちゃったら、二コラとしては、どうよ?」
 
「正直、もう会って欲しくない気持ちはある。
 白黒決着はつけなきゃいけないのは分かってるけど」
  
煮え切らない。木陰にいるものの、気だるい汗で茹る。
 
「だあーっ!両親の意向が優先されるのは当然だっ。
 でも、それとは別に、二コラの気持ちは伝えておくべきだっ。
 こうゆうの、子持ち女から言い出せないコトくらい察しろっ。頼むからっ!」
  
しばらく、考え込むように無言。のち、語り出す。
 
「ごめん.. 男として、しゃんとする。
 ミネルヴァって、意外と押しが強いほうなんだね」
 
(だって、他人事だしぃ)超ドライ
  
誰からともなく、作業再開の声が掛かり、重い腰をあげる。
同時に、間道筋から降りてきた山歩きの男から、外界の情報がもたらされた。
  
「たっ、大変だ!オーベルタールの造船所から、災害復旧の支援を断られた。
 騎士団も解散しちまったみたいで、誰も駆けつけられないそうだ!」
  
すうっとした涼風が吹きぬけた直後、猛烈な嫌悪感が襲ってきた。
善悪さまざまな思いを足し引きしても、ややマイナス面が大きい。
ミネルヴァ1人くらい、間道を通って谷を出るのは難しくもないだろう。
だが、それが出来るほど、人間性に執着が無いわけでもない。
 
現在、夏の終わり間近。
今年中に、復旧が叶うのか?これ。
 
  
  • 2020.08.01 Saturday
  • 00:00

Comment
Send Comment