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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ18/植物相−Flora Kingdom−

  

TQ配達品=
TQ配達先=
2nd Quest=手配者ミネルヴァ発見。早急に奪取せよ。
  

植物相−Flora Kingdom−(後編)

 
2日目宵の口、といっても山間部なので暮れるのは早い。
互いの顔も見分けつくか定かならざるところへ、アザレアの垣根をかき分けて、
昨夜お世話になったルスラン宅の中庭をのぞき見る者があった。
 
「ルスランくん、だよね。お母さんじゃないよね?」
  
「うおっと、ミネルヴァのおねえちゃんかい?まだ村を発ってなかったんだ」
  
とりあえず、ひと風呂を勧められるが、家主への断りもないため、
そのままの状態で会話するコトになった。
実は昼間に、帰宅途中の母親を見掛けて、家まで付いてきたミネルヴァは、
まもなく役人の家へ連れ立っていくので、ルスランと挨拶も交わせないまま、
彼らのほうを追いかけていったらしい。
  
「あーそれ、母さんが工場で濡れ衣を着せられたらしくてさ。
 騎士階級の特権で無実を誓うのに、主家から預かった写し?みたいなのが
 必要だっていってたから、たぶん、そいつを持っていったんじゃないかなぁ」
  
「やっぱり.. 追っていった先で、チラ見だけど、管理官っぽいのが1人いた」
  
母親の問題は気になるが、家章の写しが本物であるならば、
管理官がひと手間の仕事を加えて、1日の猶予で片付くと思われた。
  
「今夜は母さん、いっぱいいっぱいみたいだから、言い出しづらくて。
 内緒で昨夜の物置に案内するからさ。起き出す前にもぬけの殻にしといて」
  
「ありがとお(小声).. 恩に着ます(震え声).. 感極まる(涙声).. 」
  
 
ところが明くる日、昼にもならないうちに帰ってきた母親は、顔面蒼白で、
いまにも倒れこみそうな足取りだった。ルスランは、まだ学校である。
そして表戸の錠前に手を掛けたとき、どうしても鍵が差し込めず、
その場で崩れ落ちて泣き叫ぶ。爪が剥がれんばかりに地面を掻き毟るので、
近くで見ていたミネルヴァが、彼女を背後から抱きとめる。
  
「おばさん、何があったんです?落ち着いて。まず、落ち着いて」
   
しばらく嗚咽が続いた。ミネルヴァは母親が気持ちを整えるまで膝を貸す。
その際に、いままで気づかなかった表戸の壁の、木彫り宗教画を見る。
地域的な階級意識に侵蝕されながらも、自己の価値観で何処か善良足りえたのは、
信仰心の為せるわざだろうか。本来ならば、信仰の内にも宣誓と誓約はある。
それが騎士階級と同じ効力を有しないのは、コミュニティを違える者や
そもそも信仰する者と為さざる者とで価値観を共有しないためである。
騎士の誓約が盟主領を離れて広範囲に影響を及ぼすのは、
貴族が圧倒的支配階級として君臨するからに他ならない。
  
「私が.. 馬鹿だったのですよ。自身の無実を晴らすというよりも、
 息子のためを思って、少し欲をかいていたのかも知れません」
  
「差し支えなければ」
  
ルスランがいなかったのも幸いして、行きずりのミネルヴァに、
思いの丈を吐き出せたのだろう。今日までの経緯を他人事のように言葉にしていく。
 
「村役場の偉いさんの家に、家章管理官という方がおられるそうで、
 勧められて、キースリング子爵の家章の写しを預けに行きました。
 子爵様が、身篭っていた私に下さった証明書のようなものだそうです。
 でも今朝になって、それが贋物だって言われて、写しも返してもらえなくて」
 
沸々と怒りが込み上げてきた。貴族の援助をたかり取ろうとする偽者が、
少なからず存在するのは知っている。だが、このような汚い手口で摘み取るのは、
納得がいかない。少なくとも、戦場で亡くなられた子爵の意志を蔑ろにしている。
だが、ミネルヴァにしても踏み込み切れない過去の事情があった。
若気の至りとはいえ、ミュンスター侯の贋物を、ヘタすれば公認しかねなかった、
大失態を演じかけたことがある。良心の呵責をおぼえつつも、背負い袋を探り、
黒板とチョークを取り出して、簡単な書き込みをする。
  
「キースリング子爵の家章は、すでに貴族院に登録されていて、
 専門に学んだ者ならデザインを模倣することも容易です。
 これは"植物相(フロラ・キングダム)"と呼ばれるもので、
 キースリング家に伝承されるといわれますが、お母さんのお預かりになったのは、
 このような家章だったのでしょうか?」
  
黒板に描かれているのは、位相を示す枠組みの中に植物の妖精たちを配し、
中央には植物界の王である、キースリング家を模した大輪の花。
始め、きょとんとした表情で見つめていた母親だったが、すぐさま我に返り、
ミネルヴァの描いたデザインを否定する。
  
「いいえ.. おおまかには合ってると思いますが、中央のは花弁じゃなくて」
  
それだけを聞いたところで、ミネルヴァは母親の善良に詫びる。
そして、もう1日だけ、物置小屋を借りたいと申し出た。
  
「構いやしません。どのみち、私たち母子も村を出て行かなければなりません」
  
自暴自棄とも取れる言葉に、もうしばらく、希望を祈るように言い残し、
ミネルヴァは、母親の信仰する神の所作で祝福を与える。
まもなくルスランが帰宅し、二人に、いま一度の時間の猶予を願う。
ミネルヴァが小屋に籠るあいだ、母子は一心不乱に祈りを捧げ、
食事時には、ジャガイモを包んだパンをルスランに持って行かせた。
会話は、ひと言、ふた言、余計な長居は少年もしなかった。
 
 ほぼすべての家章図案は頭に入っている。
 「植物相」を針金細工で起こすのは造作もない。
 そもそも極相での植物の王は草花でなく、太陽光を調節し、肥沃な土を生む、
 大樹でなければならない。キースリング子爵たる植物の王は、トネリコなんだ。
 そして、この「植物相」にルスランが庇護をうけるには、
 新たな意匠───草花を模した妖精を配する必要がある。
  
ルスランのための新たな家章図案は、その日の夕刻までに完成していた。
ただし、村役人の邸に滞在する家章管理官の元をルスラン母子が訪れるのは、
翌日早朝になる。出来上がった図案を出張管理官宛てではなく、
羊皮紙での平面図の形で、直接、王都へ発送したためである。
そして、その報せは、敵味方ともに招き入れる結果をもたらす。
 
 グランベルガーの小娘が見つかった!
 今度こそ、確実に始末しろ!王都に2人の家章管理官は無用だ!
  
貴族階級が既得権益を守るため、子飼いの管理官を用いて、
新規発行を差し止めようと企てるも、発行権限を持つ別の管理官が乱発すれば、
利権の盾が穴だらけに穿たれてしまう。
ミネルヴァの存在は、まさに目の上の瘤に等しかった。
そして彼女が家章新規登録申請すれば、おのずと現在位置が王都へ筒抜けとなる。
  
 
ミネルヴァ発見の報は、鉄のメイド騎士団にも届く。現在、真夜中の2時〜3時。
夢も見ていない状態のルチアとコロナを、伝言を受けたセリエが叩き起こす。
  
「セリやん、鍵の掛かった寝室をピッキングするの、やめろよ」
  
寝起き、まず最初にパンツ穿いてるのを確認してから、出発準備。
  
「場所は?足は?」
  
「急行先は北の山間村、約50マイル地点。足はクラーナが。
 敵性傭兵部隊との先陣争いになるため、荷馬でなくカタフラクトを準備中です」
  
ルチア、起き出して早々に気分悪そう。
  
「防御壁ぶち抜くワケじゃねンだから、重兵装いらねーだろ。面頬だけで充分だわ」
  
「お好きですね、面頬。あと、北から天気が崩れるそうですよ」
  
「じゃあ、面頬とフード付きローブ持ってく」
 
「急ぎ、手配します」
  
 
以上が王都周辺における未明の顛末。
そして夜が明けて早朝、ルスラン母息子はミネルヴァの作成した針金細工───
キースリング子爵家家章たる「植物相」を手に、村役人邸の管理官の元を訪ねた。
用向きは、母ユリヤの潔白を、騎士見習いルスランの名において宣誓、
その立会人を要請するためである。
詰め寄られる貴族側管理官は、あきらかに目の焦点が定まっていない。
 
「こ.. これは植物相の王、子爵家の象徴たるトネリコの樹を基本形として、
 新たにアザレアの生態系を庇護、取り込む形で位相させている。
 亡き子爵が贈与したものではあり得ない。これを.. これを創造したのは」
  
貴族階級の意図で動く自分たちでなければ、
忌々しいグランベルガーの手になるものであるのは明白だった。
さらに動揺を隠せないのは、管理官の背後で糸をひいていた村役人である。
ルスランの母親を陥れるつもりで明かした不正会計の事実を、
騎士誓約式でかわされてしまえば、代わりの犯人を捜査する羽目になる。
無実の労働者に、これ以上、罪をなすりつけるとなれば、
予期せぬ抵抗を受けるかも知れない。そんな保身だけを案じていた。
  
「しかし、だね。略式と言えど誓約を行うとなれば、騎士叙任を経る必要がある。
 そういうものは家章管理官の職権を逸脱するものであって、
 また後日、あらためてという段取りになるだろうが、ねえ」
  
「その必要はありません」
  
村役人と家章管理官、そしてルスラン母息子の他に、邸を訪問する者があった。
早馬を駆って、着いたばかりの慌しい様子を取り繕いながら、
闖入を咎める役人らに、いましがた、使用人に告げた名乗りをふたたび口にする。
手には、懐中から取り出し広げた、王都直轄騎士団の委任状があった。
  
「鉄獅子騎士団親衛隊所属、ラファエラ.M.ムールナウと申します。
 新たなる家章が登録されたとの報告を受け、
 所有者と、その家族を保護するために派遣されてきました。
 誓約式が必要であれば、私の責任で取り計らいますが、如何か?」
  
不正役人と汚職にまみれた管理官は、ぐうの音も出ない。
相手が婦女子ひとりと言えど、帯剣の王都直轄騎士団では為すすべもなかった。
  
「事情は大まかに聞いています。子爵家との折衝次第ですが、
 息子さんは鉄獅子での見習い待遇として、教育その他の便宜が図られます。
 そして、お母さんには、村を出る意志がおありでしたら、
 ローゼンハイマー家では多くの労働力を必要としています。
 お給金は安いですが、スタンプ報奨とかありますよ?」
  
おじさんズ×2そっちのけで会話を進めるラファエラ。
とりあえず責任問題について棚上げされたのに胸をなで下ろしつつ、
憎きグランベルガーに対するヘイトスピーチが声に漏れ出る。
  
「くっそぅ.. 登録申請したグランベルガー本人は、何処にいるのだ!
 そいつが本物かも分からないし、子爵家家章は本来、私が扱っていた事案だ」
  
「もう承認されちゃったんで、本人が立ち会う必要もないけど」
  
言葉を濁しながら、ラファエラはルスランに視線を落とす。
暗に彼女の居場所を教えてもらえれば、幸いみたいなニュアンスだった。
ルスランは寂しげに、頭を振る。
 
「この針金細工を託されたとき、もう、この村には居られないからって」
  
グランベルガー家の名で家章登録申請するのが、どういう意味を持つのか、
ミネルヴァ自身がよく知っているといったところか。ラファエラは思う。
 
(さて、ルスラン親子を保護した手前、こちら側から追うワケにいかない。
 ルチア、ロン、うまくやってよね)
 
 
その頃、手配者ミネルヴァと彼女を追う傭兵部隊に肉迫する"鉄メ騎士団"は、
山間の村からさらに北へ外れる、渓谷沿いの山道にカタフラクトを走らせていた。
人馬とも鉄甲兵装なく、人間側に、いつもの軽革鎧に雨風対策といった見た目。
黒鹿毛の馬は早駆けには向かないが、重厚なスタミナを蓄えている。
  
「ミネルヴァを追って王都を発ったのは2騎。渓谷沿いの街道は右と左ある。
 いずれ合流するとはいえ、此処は二手に分かれて追跡するしかねーな」
  
早い者勝ちシステムでルチアが右、コロナが左。
追っ手側も同じことを考えていたようで、まずコロナが1騎を捕捉する。
ときおり馬速を緩めては、周囲の人が隠れられそうな場所に目を凝らしている。
  
「おっさん、ちょいと尋ねるけどよ。ミネルヴァとかゆう女ァ追ってるのかい?」
 
ド直球。コロナの装備やら馬の状態やらを値踏みするように間を置いて、
のち騎馬状態から向き直り、剣を抜いて突進してきた。敵、確定。
1stコンタクトは抜き身の剣が金属音を響かせ、一振り薙いだだけで距離が開く。
馬同士が反転し、ふたたび相互突撃。ただし、騎馬傭兵の男が旋回を終えたとき、
すでにコロナの騎乗するカタフラクトは、完全にこちらを向いていた。
  
「なっ、何だと?」
  
「なるほどな。変態的回頭性能ってのは、単騎騎馬戦でも有利なのな」
  
狭路での突破力を誇るカタフラクトは、ほぼゼロ距離での向き直りが可能。
出足を先んずれば、相手よりもスピードが乗り、剣撃の重さが女性不利を覆す。
  
「でやあっ!2撃目、もらいっ!」
  
ふたたび金属音が振るう。最初に合わせたときと違い、明らかに、
騎馬傭兵のほうが差し込まれ気味に、かろうじて態勢を戻した感じになった。
  
「あまく見ていた!二度と、遅れは取らん!」
  
騎馬同士が突き抜けたあと、3度目はわざと旋回を大きく取り、
回頭を終えたコロナが突撃方向を定められないよう、対応してきた。
そして弧の動きの延長線上から馬を駆る。今度はコロナが出遅れ気味。
  
「余裕みせ過ぎたか(笑)。これで、決めてやるぜ!」
  
騎馬傭兵の男が大上段で振り下ろす片手剣を、受ける形で合わせたコロナ。
だが次の瞬間、激しい咆哮をあげたのは男のほうだった。
右の利き手同士で合わせた剣が拮抗していたとき、コロナは左の剣を抜き、
彼の腕を肘から叩き落していた。
  
「ばっ.. 馬上双剣だとぉ!」
  
互いに突き抜けた馬同士が距離を開け、しばらく、片腕を失った傭兵が落馬する。
  
「俺ァな、昔っから足癖悪い女で通ってたんだよ。
 騎馬戦での足癖ってのは、本来こうゆうのを言うんだぜ?」
  
両脚と体重移動を用いた手離し馬操術。馬上双剣は、その副産物である。
ルチアと別行動を取ったが故に、見せることが出来た奥の手だった。
そして今回の手配任務は、敵対する傭兵稼業の排除も追認されていた。
今後を考慮して、暗殺以来など引き受ける輩がおいそれと現れないよう、
手荒な真似が抑止力になるとの判断である。
  
「"血塗られた薔薇"を経由した仕事は、話が簡単でいい。あばよ、おっさん!」
  
  
いっぽう、渓谷右岸を駆るルチアも、追っ手の騎馬傭兵1騎と剣を交えていた。
差し向かい突撃を繰り返したコロナと違い、同じ方向へ鞍を並べての応酬である。
山側にルチア、谷側に追っ手の男である。
すでに剣同士が鍔競り合い、小手先技(ハントグリフ)の態勢に固めていた。
そもそもこの状況になったのは、相手がルチアを女と侮り、あまつさえ、
馬高が低く運動性能に優れているとは言い難いカタフラクト軍馬を、
見誤ったために陥った失策だった。
  
「馬鹿な..!そんな、馬鹿な!」
  
カタフラクトが横の当たりに強いわけでもない。
明らかに、ハントグリフを介した下から突き上げるような加重の伝わりが、
抗う隙も見出せず、一方的に谷底へ競り落とされる結果に繋がったのだろう。
難なくミネルヴァ暗殺部隊を処理したコロナとルチアは、やがて合流し、
雨足の強くなった街道筋で、目的の逃走女を捜索する。だるいので馬上から。
  
「ルチア、もう無理だ。この雨じゃ、探し相手も引き篭もってるだろうよ」
  
「保護捜索されてる自覚ないのが厄介だぜ」
  
2騎のカタフラクトが去った街道筋の森の奥、猟師組合の仮小屋に、
ミネルヴァは雨宿りしていた。のそっと起き出し、雨空を見上げて、観念する。
  
「このまま寝泊りするしかないか。お腹減ったな」
  
保護対象を暗殺者から守った。でも保護回収できなかった。
マジ長期戦になるっぽい。勘弁してくれ。
   
  • 2020.07.25 Saturday
  • 00:00

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