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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ16/ふたり庵

  

TQ配達品=いろいろ適当に運んだ
TQ配達先=あっちからこっち
 

ふたり庵

 
うだるような真夏日の昼下がり、踏鞴工房から顔をのぞかせたアーユは、
周囲に人影がないのを執拗に確認し、目と鼻の先にある共有井戸までやって来る。
肩脱ぎになり、桶に汲んだ水で浸した手拭いで頻りに汗を拭うなどするも、
もう一度、辺りをきょろきょろ見渡して、おもむろに頭から井戸水をかぶる。
 
(つかの間の涼、そして直後にむわっとくる、ぬるい空気───)
 
至福と後悔のダブルゲット。
里井戸は裏山の沢から小石を詰めた暗渠を経由して引いてきた用水であるから、
工房に置いてある焼入れ用の水桶の中身に比べれば、浴びた直後は格段に冷たい。
持参した手拭いで手早くふき取り、襟を戻すと、ふたたび工房にとんぼ帰り。
踏鞴場のある土間の奥には、彼女が普段、寝食する6畳板の間があった。
 
(もう、今日は何もする気にならない)
 
床板に頬ずりすれば、ひんやりとして気持ちいい。
土間口と、板間2面を開け放した部屋は風もよく通り、まどろみへ落ちるのに、
然したる時間もかからなかった。
夢と現(うつつ)の境界で、郷里にいる(はずの)家族と言葉を交わす。
記憶にも残らない、他愛ない無駄話。相手の顔も霞み掛かっていて、
誰だかさっぱり分からない始末。少し、もやっとする夢見だった。
 
  
その頃、彼女の住む山里から半里ほど下った脇街道では、
ちょうど配達を終えて帰路につく、ルチアとコロナの姿があった。
手綱を操るコロナにフィンケを留まらせると、1本の酒瓶を手に荷馬車から降りる。
 
「ったく…アポも取らずに、思いつきでよくやるぜ」
 
「留守だったら残念賞ってコトで、こいつは隣のオヤジにでも飲ませてやんよ」
  
荷馬車ごと寄り道する申し出を断り、ルチアはひとり、山道を歩き始める。
明日は配達が決まっていないので、帰りは徒歩で気まま旅である。
やがて目的地の工房にたどり着くと、表戸が全開なのを確認してのち、
軽く外回りを巡ってみる。
 
(話に聞いていたとおり、食べられる草の1本も生えてねー。くそわろ)
  
ちょうど真裏に来たとき、板間の雨戸までが開いていて、
素通しにアーユが横たわっているのを見てとれた。
微かな寝息とともに、肩が上下動しているのがわかる。
 
 うっは♡こうやって直視してみると、顔の作りとか全然、違うのな。
 
 着物は…これも、こっちで手に入る衣類をリメイクしたのか。
 ボタン取っ払って、紐で結わえるようにして───
 
ふと、先日の改良型カタフラクト装備を思い出す。留め金や捻じ込み式でなく、
結束具によって自身で着脱できるよう工夫された、
おそらくは彼女の出自国伝統の甲冑形態なのだろう。
山砦での重装騎兵突撃を耐えられたのも、彼女の力添えに因るところが大きい。
そしてまた、別な思惑が過ぎる。
 
 そういえば、彼女───救世騎士号に復帰したんだっけ。
 本当に、鉄獅子将軍ロレンティウスと対等に渡り合えるほどの武力が───!
  
ルチア特有の悪戯っ気が、考えるよりも早く、縁側に腰掛けたままの状態から、
邪眼の構築する盤面が支配して、幸せそうに寝入るアーユに迫る。
まさか、本気で刃物を向けるわけではない。想像の中で厨(くりや)の包丁を拾い、
そこから6間弱の間合いを詰め、振り下ろす───
 
 ダアァン!
 
現実世界で、アーユが激しく板間を掌打すると、邪眼の連携が消滅する。
反動で上半身を起こした彼女は、すでに居合いを放つ態勢。
 
 マジで起きやがったァ!達人か(笑)
 やべえ!抜き打ちが見えねー。斬られた!
 
充分にあるはずの間合いが意味を為さない。縁側に座したままのルチアに、
大粒の嫌な汗が吹き出てくる。そして、間延びしたアーユの声が後に続く。
 
「あい〜?おあよう(おはよう)」
  
寝覚めを不思議そうに右を向き、左を向いて、ルチアに焦点が合う。
 
「おお.. 誰だっけ?おおお」
 
寝惚け眼(まなこ)で、心ここに在らず。間を置いて、鉄材料を一緒に運んだ、
毒葡萄酒事件を一緒に解決した、顔見知りだと思い出す。
いっぽうのルチアは、緩慢に自分の左肩から胸元をなぞり、
切られていないコトを知る。同時に、とても重要な点に気づいた。
 
 こいつ、最初から刀なんて持ってねーだろ!
  
現実に視えているかの話ではなく、邪眼が認識できていなかった。
それだけの威圧で、前提を彼方に押しやられた。
 
 もう金輪際、救世騎士に悪戯なんてしない(涙目)…
  
あらためて招き入れられ、ルチアは来訪の理由を告げる。
先日の重装騎兵甲冑一式に対する尽力に、感謝の意を伝えると、
彼女も大仰に礼を返した。
 
「偶然、アーユの故郷っぽい酒が手に入ったから、一緒にやろうと思って」
  
澄んだ純米酒の瓶を板間に置き、そっと彼女のほうへ滑らせる。
ローゼンハイマー海運で取り扱われた、交易品の1つであり、
ルチアが保有する青汁スタンプ交換対象アイテムだった。
アーユは厨へ行き、呑み椀と酒肴を出そうと思ったようだが、
生憎、口に出来るようなものは何も無かったらしい。
 
(家の周辺、食える植物生態系ほぼ壊滅してるけど、どーすんだよ草)
 
腹が減れば、城兵舎の食堂でタダ飯が食える。
この日、いまひとつ焦燥感が足りないのは、そういった事情によるものだろう。
 
「工房も、もう少し他にやりようあるのでしょうが、
 どうにも独り身では、過分を得ようとする欲も湧いてこないです」
  
踏鞴の火は落ちていて、工房まわりには型抜きの金物細工が幾つか、見てとれる。
重装騎兵の防具改良請負から、融通されてきた手間仕事なのだろう。
障子紙にデザインされた墨書きなど、コロナに見せてやれば、喜びそうだ。
どうぶつ───というか、ルチアには馴染みのない姿形が居並ぶ。
尾が9本ある狐、頭に皿を乗せたカエル、股間が有袋類な狸親父、
これらも、アーユの故郷に由来する生き物たちなのだろうか。
  
「なんか、自分の知ってる生態系とギャップあり過ぎて、異世界住人かと」
 
「さあ、昔語りに聞いたものばかりで、私は見たコトもありません」
  
どのみちガワだけのもので、型抜きに過ぎないのだから、
ほとんどは僕、わたしが考えた動物デザイン画で終わる話かも知れない。
   
「お弟子さんの1人でもいれば、変わるものかな」
  
ルチアの言葉に、アーユは肯定も否定もしない。
ただ、型抜き細工繋がりで、スタンプ交換リストに興味を示しているようだ。
  
「しごき甲斐のあるショタとかあれば、交換して欲しいです」
 ※奴隷の完全私有を認める通商同盟ならまだしも、
  サンドラ主催の貿易機構では、人間のアイテム化など存在しない。
  
言葉の壁を感じるときがある。
肯定的にも、否定的にもとれる会話を得た場合など、特に。
 
「ひと皮剥ける前の男の子、な」
 
探りの意味を込めて、ルチアが言い直すと、アーユは何も答えない。
異国語の会話が高尚すぎたのだろうか。目の前の酒を、ちびちびとやるだけだ。
 
「ホントは、さ。ちょっとだけ、気がかりだったんだ。
 生まれた土地を離れるのは、ほら、良いコトもあるし、悪いコトもあるからさ。
 選ぶアイテム、間違えたんじゃないかと思ったりして」
  
少しだけ、言葉を選ぶような間をあけて、アーユは自分語りする。
 
「私が故郷を離れたのは14の時ですから、懐かしむほど酒の味を知りません」
 
「えっ…そんな時分から親父さんの元を離れて、
 これだけの刀工技術を身につけたの?」
 
「鍛冶手伝いは6つ7つの頃から始めていましたから。
 それに、異国の鋳型造りを識って、打ち造りを識ることも多くあります」
 
「うーん、まあ、私も8つのときから客取ってたから、そんなもんか。
 それより、酒のほう悪かったね。どちらにしても、アルコール以外の食い物は、
 保存の関係で手に入るとは思えないし」
 
「いえ、そんなつもりで言ったのではないです。難しいな…」
  
両足を三角に崩し、それでも背筋をピンと張って挑む姿は、たとえようのない、
美しさを兼ね合わせていた。ルチアも見よう見真似た姿勢から、酒の香に酔う。
  
「酒造りに必要な酵母は、その土地独特のものだそうです。
 私は故郷の酒を知りませんが、おいしそうに杯に口をつける父者の姿が、
 鮮明に思い出されます。そんな酒があっても、よいではありませんか」
  
  • 2020.07.04 Saturday
  • 00:00

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