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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ18/植物相−Flora Kingdom−

 

TQ配達品=きっと、何かを運んでいる
TQ配達先=たぶん、何処かで働いてる
  

植物相−Flora Kingdom−(前編)

   
 私の名はミネルヴァ。理由あって、ルンプロ(浮浪者階級)をしている。
 
此処は盟主領から北にはずれた、渓谷沿いの山村。その牧歌的な市場の隅で、
ひと尋の広げた敷物の上に、手製の針金細工を売る女?乞食?がいた。
食べ物でもなければ、薬草などの必需品でもない。粗末な装飾品に目をくれる者は、
誰ひとりとしていなかった。無視されるだけならいい。なかには───
 
「きったねー!よそ者がゴミを並べてるぞ。どっか行けよ!」
  
学校帰りの子供たちだろうか。これ見よがしに走り寄ってきては、
売物?を踏みつけていくのが、何人かいた。追い掛けて叱りつける気力もなく、
ぺちゃんこになったアクセサリを1つずつ手に取って、
素材を抜き取れるものは回収して、工具箱の中に戻す作業を始める。
悪戯小僧たちから遅れて、ひとり、ミネルヴァの前に立つ少年があった。
  
「あーあ、ひどいよな。あいつら、やり返さない相手には、とことん強気だから」
 
年齢は11〜12くらいだろうか。敷物の外にまで散らばった幾つかを拾いあつめ、
ミネルヴァに手渡した。彼もまた、それが何なのか、よく分かっていない。
 
「ありがとう。でも親切ついでに、どれか買ってくれると嬉しいな」
  
そのへんは、少年とてシビアだった。無い袖は振れない。
代わりに、お昼に食べ残したパンを少し、差し出してきた。
好き嫌いとか、お腹がいっぱいになった類ではなく、純粋にパンが固くて、
子供の咀嚼力では食べ切れなかったとするほうが妥当だろうか。
ミネルヴァは、お構いなしに、目を潤ませながら食べ残しのパンに齧りつく。
いやホント、齧って削って粉を喉に送り込むといった表現が適当なパンである。
それでも久方ぶりの食事に人心地ついたミネルヴァは、お返しとして、
少年の前に、難を逃れた針金細工を並べて、ひとつ選ぶよう頻りに勧める。
少年の顔、ちょっとだけ嫌そう。
 
「それよりさ、見たところ手足も健常だし、病気してるふうにも思えないし、
 農業とか牧畜とか、人の為になるものを作ればいいのに───てか、これ何?」
  
ペンダントヘッドにしては大きくて、置物にしてはバランスが悪く、
細いの太いの様々な鋼線を組み合わせた精緻な仕上がりであったものの、
結局、それが何なのか理解出来なかった。
  
「あはは.. 腕が鈍らないようリハビリとゆうか、勉強みたいなものだよ。
 人の為になる───ですか。耳の痛いばかりで、ごめんなさい」
 
地方領にまで波及した戦禍からの経済復興は、貧富を問わず、人々を疲弊させた。
そんな中、身体的精神的に脱落した労働者を別階級の括りに当て嵌めて、
下層労働階級の不平不満の矛先にしていった。
ルンペン・プロレタリアートは、そういった目論見の下で生まれた枠組みである。
  
  
浮浪者の物売りと別れた少年、ルスランが帰宅すると、
母親が工場の昼休みで家に戻っていた。けたたましい会話が聞こえてくるので、
客人の来訪と、それが村役場の長だというのが分かった。
  
「兎に角だね、息子さんに上級学校への進学意志がない場合は、
 来月から工場へ出てもらわないといけない。学ぶか、働くかしかないのだよ」
  
「うちには勉強させてやる余裕などありません。ですけどね、思い出したのですよ。
 何か困ったことがあれば、ルスランの父親、キースリング子爵家を頼るよう、
 赴任地を離れられるとき、託(ことづ)けられていたのです。
 慰謝料をたかり取ろうって考えじゃありません。あの子のために、
 最低限の教育機会を与えてやりたい、それだけじゃありませんか」
  
ルスランにとって、二人に顔を合わせづらい会話だった。
帰ってきたのを悟られないよう、途中で鉢合わせしないよう、忍び足のうちに、
自室へ駆け込んでしまう。彼にとって、進学でも奉公でも、どうだってよかった。
薄い壁の向こうから、母親と役人の会話は、依然として聞こえてくる。
  
「分かります。お母さんの仰ることはよく分かります。しかし.. ですね。
 彼のお父上は、9年前の戦争で亡くなっておいでなのです。
 いまさらキースリング家の皆様がたに援助を申し出たところで、
 あなた、図々しいとは思いませんか?良からぬ火種にもなりかねませんよ」
  
ルスランは、いま初めて父親の素性を知った。驚きが後追いでやって来て、
またすぐに、他人事のように冷静さを取り戻す。
此処で、彼の生い立ちについて注釈したいと思う。ルスランのような父なし子は、
けして珍しい身の上ではなかった。
戦争を始め、作戦展開中には騎士団単位で町場を移動するのであるが、
下位士官や兵隊の多くが野営や、神殿のような広い建物で寝泊りするのに対し、
ひと握りの指揮官クラスは土地土地の有力者などの邸宅を間借りすることがある。
個人宅でも男手が出征しているなど、家庭状況が特殊だったり、
ルスランの母親の場合は、子爵が滞在する邸に奉公する使用人だったりした。
いずれにしろ、長(なが)の逗留のうちに、過ちが起きる例も少なくなかった。
  
「まだ、あの子がお腹の中にいたときです。子爵様が去り際に仰られたのです」
  
母親を相手している役人の胸中は複雑だった。
子供が育てられなくなれば、率先して迎え入れると宣言した子爵など特別な例で、
多くは妾腹を本家に入れるのを良しとする者など稀有だろう。
そして現在、ルスランなどの子供たちを家督相続に利用する輩が跋扈するにあたり、
貴族筋から強烈な拒否反応が生まれていた。
母親にしてみれば、最低限度の養育費を分与してもらいたい。
かたや、血縁関係の確たる証拠もない子供を軽々しく邸に迎えるわけにもいかない。
お父上が善良であっても、一族に跳ね除けられる場合がほとんどであり、
相反する思惑のなかで、悲劇の種が其処彼処で芽吹き始めていた。
  
「まあ、そうですね。この話は役場に持ち帰り、善処するとしましょう」
 
 
その日の暮れ、母息子ふたり慎ましやかな夕食のあと、表戸を叩く者があった。
母親が対応に出て、また強い口調での叱責が聞こえる。
 
「雨露をしのぐために、ひと晩だけ、物置で寝かせてもらえませんか?」
  
「冗談じゃないよ!浮浪者階級に関わったら、
 職場の同僚たちから誹謗中傷されるのは、こっちなんだからねっ!」
 
昼間とはうって変わり、浮浪者の言葉に引っ掛かったルスランがのぞき見ると、
はたして、学校帰りに出会った、針金細工売りの女性が母親に詰め寄られていた。
少年は思わず、母親に後ろから抱き着いて、思い留まらせようと試みる。
 
「母さん、このひと、浮浪者なんかじゃないよ!旅の物売りしてる人なんだ!」
  
「はあっ?ちゃんとした商売人が、宿屋にも泊まらず、
 人様の家に無心するはずがないだろう。ちょっと気を許せば、明日の我が身だよ」
  
親子の口論にも発展しかねない状況に、訪ねてきた女性はひと言、断りをいれ、
立ち去ろうと背中を向けた。少年は、いま一度、母親を呼ばわる。
  
「お待ちなさい!まったく、ひと晩だけだよ。あと、近所の者に気づかれないよう、
 灯りの類は使わないでおくれ。いつまでも、表で騒がすんじゃないよっ!」
  
彼女が言うように、家の外で浮浪者を交えた目立つ行為を避けたかったのだろう。
それにもうひとつ、自分が追い返したとして、若い女浮浪者がこれから訪ねていく、
近場の住人が、それほど善良でないことも見知っていたからでもある。
  
ミネルヴァは母親に深々と頭を下げ、
その後、気づかれないよう、そっとルスランに目を合わせて、微笑みあう。
 
そして場面はルスランと二人、入浴シーンへと移行する。
 
(11歳の男の子と混浴かぁ.. 思い出したくない過去が、浮かんでくるなぁ)
  
「だってさ、灯りを使っちゃダメってゆわれただろ?
 それなら、俺と一緒に入るしかないじゃん。面倒なコトは言いっこなしだぜ」
  
ミネルヴァにしてから、久しぶりの風呂の誘惑に抗えなかった。
風呂桶は、ほぼ1人用。建屋と生け垣に挟まれた屋根つきテラスといった感じで、
屋外に設えてあるといっても適当である。
そもそも湯気にぼやけた小ランタンが、飛沫のかからない遠めに置いてあるだけで、
石鹸が何処にあるか程度の認識しかしようがなかった。
  
「風呂あがったら、さ。また夕食の残りの固パンを持って行ってやるよ。
 母さんには、ナイショだぞ?」
  
夕飯抜きのまま入浴したため、わりとふらふら状態だったミネルヴァにとって、
涙がでるほど有り難かった。
でも、今は、出来れば湯船に浸かるのを交代して欲しい。
暦の上では夏と言えど、かなり北に位置する山間の村であるため、
素っ裸で、ほぼ外にいる状況では、すっかり冷え込んでしまったようだ。
  
「そうだ!とりあえず、腹の足しに」
 
何かを思い出した様子で、ルスランが湯から立ち上がり、垣根のほうへ向かう。
ミネルヴァは湯船が空いたのと、彼の"子供らしさ"に安堵をおぼえる。
少年は垣根に咲いている花を額ごと一輪もいで、すでに幸せ気分の彼女へ差し出す。
  
「これ。蜜でも吸って、気を紛らせておいてよ」
  
それは、手のひらのうえに乗った、薄桃色したアザレアだった。
ミネルヴァは手に取り、花びらの額を歯で噛みとって、行儀悪さもお構いなしに、
花の蜜を吸った。そんな様子を、スルランは興味津々に追っている。
  
「君のぶんは?」
  
「これ、さ。母さんが子爵様を世話していた奉公先から、
 株分けしてもらったアザレアなんだ。子爵.. 父さんの好きだった花なんだって。
 だから、無くなってしまわないよう、今夜は1つだけ。な?」
  
本来のアザレアの開花は春過ぎである。ただ、土地柄、初夏の前まで雪が残るため、
この時期にずれ込むのも珍しくないという。
 
その夜、同じ頃。村役人の家では初老の男性の客人を招き、両者とも、
苛立ちを募らせていた。ルスラン母息子の件だと、想像に難くない。
  
「遠征兵役の手が足りなかった、ひと昔前とは事情が異なる。
 たとえ血縁者であろうと、現在では子弟を集めて教育するような物好きもない。
 だが仮に、母親がアレを所持しているとなれば、厄介事になりかねん」
  
「は.. 私に考えがあります。例のモノの有無を確認すると同時に、二度と、
 息子を貴族にするなど考えられないよう、策を講じたいと思います」
 
 
翌日、午前の就労時間が終わり昼休みの鐘が鳴ったとき、工場の労働者たち、
といっても10人足らずだが、工場長から集合を促され、朝礼室に会した。
彼の隣には昨日みた役人が付き添っており、物々しい雰囲気を醸している。
まず、工場長が口火を切った。
 
「役場の監査で発覚したのだが、労働者各人から集められた積立金の今月分が、
 納金されていない事が判明した。当然、工場側の会計簿にも記載がない。
 工場から役場へ行く過程で紛失したのか、はたまた、君たちから集金した後で、
 工場が会計に載せる前に持ち去られたものか。いずれにせよ、
 私たちは関係者から、重要な証言を得ている」
  
そして、居並ぶ労働者を順番に一瞥していく工場長の視線が、
ルスランの母親の前で止まる。
  
「ユリヤ.ダニーロヴナ.クラコワ───君が最後に預かったそうだね」
  
「は?」
 
予想だにしなかった成り行きに、大きく目を見開いて、状況把握に努める。
必死の思いで否定するも、工場長はおろか、仲のよい同僚たちですら、
いっさい関わろうとして来なかった。
母親は、終始無言を貫いていた村役人に付き添われて、一時、帰宅させられる。
家には半日授業だったルスランが帰っていて、青ざめた母親の様子に、
ただならぬ事態を感じていた。
  
「私は知らない.. 本当に何も知らないのです。どうか、信じてください!」
  
狼狽する母親を、役人は宥めているように見えるのだが、それは形式的に過ぎず、
親身でもなければ、逐一、話を聞いているわけでもないように思われた。
そして、のべつまくなしに続く彼女の弁が途切れた頃合を見て、
彼なりに考案した一計を耳打ちするのだった。
 
「よろしいですか、お母さん。我々平民には無縁の話だと思っていましたが、
 騎士であれば、誓約と宣誓を行使する特権が得られます。
 息子のルスランが承認され、母親の無実を誓うなら、
 あなたは罪に問われることはなく、官憲に囚われもしない。
 幸い、我が家に盟主領の派遣家章管理官が滞留されておられますから、
 何かキースリング家に由来する品があれば、持参されるがよろしい。
 きっと、力になってくださるはずですから」
  
家章とは、貴族や騎士階級の識別証のようなものであり、
名誉受勲などが紐つけされるため、家系で共通する意匠を保有するとともに、
個人章としても千変万化していく性質がある。
家章管理官は、そのような家章の変遷を記録し、承認する有資格者である。
ほとんど有り得ない話だが、家章管理官の承認がなければ、
家督相続が成り立たない事態も想定されることになる。
  
「持って行きます!必ず、持って行きますから。どうか.. どうか!」
  
母親には後がないも同然だった。村のコミュニティで罪人の烙印が押されれば、
工場で働き続けることも叶わないだろう。
待ち受けるのは、浮浪者階級への転落のみ。それが、何よりも恐ろしかった。
  
 
ちょうど、その頃、露店売りで針金細工を並べていたミネルヴァは、
昨日の役人とルスランの母親が並んで帰る様子を見かけていて、
二人の様子に違和感をおぼえ、早々に店じまいの片付けを始めていた。
   
  • 2020.07.18 Saturday
  • 00:00

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