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反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ15/祖国の空

 

TQ配達品=とある自治領の旗
TQ配達先=鉄獅子騎士団屯所⇒アイヒホルン山砦包囲陣
 

祖国の空

 
もう30年も昔になるか、盟主国周辺には幾つもの諸侯領があり、
武力侵攻のたびに領民は公用言語を変えられた。そういった諸侯がすべて、
領民に苛烈な支配を強いていたかと言えば、そうでもない。
河川沿いでは早くから船舶貿易が花開き、商人や地主など、
資金力が分散多極化していくことになる。
異なる性質の支配地が増えるほど、細分化されたエスニックでまとまり始め、
やがて併合と割譲の波にのまれて後も、失った祖国を思い馳せる者たちは、
いずれ自分たちの王の帰還を待ち侘びて、市井に埋もれているのだった。
  
「こちらの品を、アイヒホルンの山砦に籠るローマイアー殿に届けてください」
  
アグネスを経由して渡された馬上矛が、意外と軽いのに気づいたルチアは、
長柄の後ろに蓋が留められているのを確認する。
 
「中を見ても?」
  
「どうぞ、ご覧になってください」
  
サンドラの許可を得て蓋を外し、収納されていた布を取り出し、広げてみる。
名も知らぬ諸侯の紋章だろうか、丁寧に刺繍を施された掲揚旗のようだ。
  
「こいつを渡したら、立て籠もりの首謀者だっけ?ひょっとして───」
  
「そういうの、分かるのですか?」
  
意外そうな表情で、サンドラが問い返してくる。ルチアは言葉を濁しながら、
何となく、頭を振るだけである。
自分とコロナも、領地争いの果てに焼け出された戦災孤児だった。
攻めた側、守りきれなかった側いずれにも、然したる感傷はない。
ただ、そういった考え方を持つ人間も存在することを、おぼろげに認めていた。
 
 TQ配達品=馬上矛に仕込まれた、かつての自治領の紋章旗
 TQ配達先=鉄獅子騎士団屯所にて重装騎兵を借り受け、山砦包囲陣を抜く
 
新邸を出発した2人は、フィンケの牽く荷馬車で一路、鉄獅子屯所を目指す。
これから向かうアイヒホルン山砦は、ある自治領の回復を悲願とした、
武装勢力の一団により占拠されている。かれこれ、1ヶ月半になるだろうか。
 
「きっかけは、ほれ、夏先にハリネズミ騎士団の老将が本懐を遂げただろ」
  
「あーエルの奴が、単騎で配達にいったアレだよね」
  
議会の説得を振り切り、9年前の王都内乱の罪を背負う決断を下し、
ロレンティウス将軍に誅殺された、元救世騎士拝命マルコ.リューベックの話は、
武勇伝というか、詩歌の一片として城下に語り継がれた。
今回のローマイアー蜂起は、それに起因するといっても差し支えない。
逆賊ディオンが画策した内乱扇動に乗じる形で、領地奪回の安堵を求めて、
旧皇帝派に参陣した1勢力だったからである。
  
「帝政が安泰に終わったとして、周辺自治領にまで干渉するはずなかったよな。
 後で冷静に考えてみれば、の話だけど」
 
当時なればこそ、追われた者は皆、夢を見ていた。
そして、多くの同胞が傷ついた。リューベック侯が自らけじめをつけたように、
彼もまた、終焉の場所を求めているのかも知れない。
山砦を占拠したローマイアー勢力は100人にも満たない兵数だと伝えられるが、
諸侯連合の包囲を受けて、まもなく1ヶ月余りが過ぎようとしている。
武装も兵糧も、ろくに準備されていない立て籠もりを、これだけ持て余したのは、
偏に包囲する側も烏合の衆に過ぎなかったからである。
  
「主戦が正規配属を希望する予備隊で、満期除隊したベテランですらない。
 多くは私兵からの成り上がりを目論む傭兵稼業とか、
 ごろつき紛いの愚連隊が占めているから、最初から話し合いなど出来ない。
 立て籠もるほう、囲んでるほうの両方がクズ」
  
「おい(笑)!」
  
クラーナとセリエを介して、可能な限り聞きつけた情報を口頭伝達するルチア。
どちらにも肩入れせず、一刀両断したのがツボにはまったコロナ。
いずれにせよ、グラム砦強襲のときみたいな空気感がなくて、ほっとしている。
 
 
「どんな感じですか?」
 
久しぶり小隊長は、前回物別れからの首尾を心配そうに尋ねてくる。
屯所でのルチアは変わらず空気、低気圧寄りだが、雰囲気いうほど重くない。
またコロナが小隊長の話し相手になる。
 
「とりあえず、買物袋かぶせて遠乗りするところから始めた。乱取りも少し。
 だが自分で着脱不可なフルフェイスには辿り着けていない。ダメかも知れん」
 
早い話、戦場だろうが街中だろうが、自らの意志で全裸へヴン不可な状況だと、
発狂して転げまわる模様。まあ、それは言い過ぎだとしても、
生き死にをやり取りする場所で、棺桶の中に縛られることが耐えられない。
そういった類の精神疾患は、稀なわけでもなかった。
彼女のように戦場でチェス盤が幻視(み)えるような者は、とくに。
かと言って、敵味方入り乱れる場で非武装状態など以ての外である。
 
「1週間の急場拵えですが、騎手兵装の改良が間に合いました」
  
小隊長の促すままに、コロナから着用。
まず、胴と腰部位のプレートパーツが、ほとんど前半分しかなかった。
 
「ぎゃははっ♡裸エプロンみてーだな。変態だ!これ、作ったやつは変態だ!」
 
「宮廷付きの、本来は刀鍛冶の女性ですが、経済状況がアレなんで、
 わりと何でも引き受けてくださいますよ」
 
マジで変態の手による作品だった。馬への更なる軽量化は図るとともに、
兵装の密閉性を極限まで開放。大きく開いた背中部位には、
別パーツの背負子を渡された。
竹細工の骨組みに布地を張りつけた「幌(ほろ)」である。
 
「うは、背負子そのものは片手で持てるくらい軽いのな。
 なるほど、こいつで後方からの矢来をカットするのか。
 背嚢背負って剣ぶん回すのと変わんねーな」
 
地べたでは、幌を背負ったルチアが空気のまま、
棹武器を縦旋回横旋回させている。思考回路が働くだけ、こないだよりマシ。
 
「肝心のヘルメットですが、顔面をさらけ出した被り物で、
 結紐により固定するため、自力での着脱が可能。
 空いた顔部位は面頬(めんぽお)と呼ばれるネックパーツがフォローします。
 バイザーの跳ね上げとは真逆に、下方向へ開閉しますから、
 接敵直前まで鎧着装による閉塞感を軽減すると思います」
 
変態鍛冶師の面目躍如。変態の里でなければ生まれない技術も、
ふんだんに使用されているとみた。
 
「恩に着る。この配達、必ずやり遂げるよ」
  
ルチアが今日、初めて意志を口にした。だが小隊長はそれを遮り、
仕事にかかる前の打ち合わせを続ける。
 
「ロレンティウス将軍の尽力にも、心を留め置いていただきたい。
 城砦向かって右翼に布陣する騎馬隊が、花道を空ける手筈になっています。
 そこから城砦上水道の特殊侵入口に手引きしてもらえると思います。
 ただし、包囲するのは私掠傭兵団を含む多国籍連合軍ゆえ、
 幾つかの白刃は潜り抜けていただく必要があることを、お忘れなく」
 
 
重装騎兵カタフラクトの作戦圏輸送に半日以上をかけ、
人馬ともに、突撃前のわずかな休息を得たあと、夜明けとともに発つ。
 
「ルチア、問題ないよな?」
 
「ない!が…夏場にフルプレートは、暑くてかなわん」
 
「俺もだ。気が合うな!」
 
彼方に山砦が浮かびあがる頃、ルチアたち2騎の異様な風貌に対して、
静止命令する騎馬隊が幾つかあらわれる。無論、彼女たちは従わない。
開放していた胸部位前掛け胴を持ち上げ、面頬を再装着、
力ずくで止めにくる騎馬隊数名を完全装備のカタフラクトで跳ね返した。
1騎.. 2騎.. 3騎.. 散発的に降りかかる火の粉を払ったあと、
左右に盟友2騎を従えた、わりと見憶えある若手(たぶん)の騎士が躍り出た。
てっててー(効果音)坊ちゃ仮面プラス2雑魚。あれから精進してLv.12。
 
「砦に近づく所属不明の騎馬は、誰であろうと通さない(よう言われている)!」
 
まず坊ちゃ仮面の前に壁を作った左右2騎をルチアが、そしてコロナがボコる。
そして坊ちゃ仮面。左を抜けたコロナが、坊ちゃの右足を蹴り飛ばし、鐙を外す。
右からはルチアが、手にした馬上矛で撃ち据え、剣と合わさった金属音が響く。
 
「邪眼は必要ない!ハントグリフ発動!」
  
合わさった刃同士を起点に相手の身体移動を支配する。
坊ちゃが全身動けないのと裏腹に、ルチアは右足鐙、右手手綱、
そして左手の矛が固まった状態で、左足フリー。
そのフリーな左足でソフトに坊ちゃを蹴り落とし、難なく障害をクリア。
鮮やかに落馬連携が決まったのを横目に確認したコロナは、
嬌声に近い叫びをあげる。
 
(ルチア完全復活…といっても遜色ない。いつでも解除できる面頬のせいか、
 それとも、戦場の危機意識が心的傷害を凌駕するのか)
 
坊ちゃ仮面(騎馬)をかわしたあと、走路にフルプレートの騎兵が現れる。
右斜め前で疾駆するルチアをチラ見すると、重装鎧の上からでもわかる程、
荒い呼吸に上下動している気がする。だが、それも間もなく、
前方で震える剣気に二人の意識が集中する。
 
(こいつ、何かヤバイ!)
  
まず、ルチアの周囲で張りつめる空気が変わった。
邪眼発動…その一挙手一投足が生み出す隙間に、水が流れ落ちるが如く、
コロナは長剣で干渉していく。
 
「邪眼──からの、アグネス専用(※小手先技ハントグリフ)!」
  
腰を梃子にした馬上矛の振りで相手の左腕剣撃を受け止め、かつ利き腕を殺す。
互いに攻撃手を相殺された逆側から、コロナがすれ違い様の長剣を見舞う。
彼は盾の無い右手甲で真っ向から剣を受け、正しくは、
剣の軌道を変えるように威力を流しつつ、体幹の外側へ弾き出した。三者無傷。
そして彼の重心が移動したのを逃さず、ルチアが柄尻をポンと叩いて、
ハントグリフ開放。同じく腰を支点にして柄尻の側で思いっきりぶん殴る。
相手はこれも、馬上で伏臥するように回避。コロナの長剣は、すでに届かない。
 
「正規騎士団か!マトモに戦り合ったの、何年ぶりってヤツだぜ」
  
相手騎士からの追撃はなく、距離が離れていく。
前方には鉄獅子に内応する勢力によるものだろう、次第に進路が開いて見える。
ルチアとコロナが無事に走り抜けるのを見守りながら、馬上の騎士が兜を脱ぐと、
重騎兵装備を彼女たちに託した小隊長の、ひと仕事やり終えた顔が露わになる。
 
「いまのが邪眼か。当て逃げ(※すれ違いの一撃のみ)でなく、
 乱打戦だったらと思うと、ぞっとするね」
  
おそらくは上官、ロレンティウス将軍からルチアの練度を測るため、
言いつけられていたのかも知れない。そんなバイストーリーは歯牙にもかけず、
小隊長からの助言通り、ルチアたちは内応する騎士隊の手引きによって、
砦外排水路を経て内部に侵入を試みていた。
 
「うへぇ.. これ、下水道とかじゃないよな?」
  
「雨水路だよ。水濠に直結する下水なんぞ、あるわけないだろ」
 
腰上まで浸かる水路を辿り、途中から砦占拠する兵隊たちに付き添われながら、
やがて頂上部掲揚塔に達する。
ルチアがもたらした自治領旗がはためくにしたがって、砦外包囲陣からも、
小さくないざわめきが起こった。傍らにいた兵士が、謝意を伝える。
  
「本来であれば、ローマイアー殿が直接、接見すべきなのでしょう。
 ですが、すでにもう立ち上がる余力なく…。
 私も後を追うつもりですが、最後にひとつだけ、
 願いを聞いてはもらえぬでしょうか」
  
祖国の旗の下で、最初に聞きなれぬ言葉が交わされた。そして、歌が流れる。
風の音が変わり、ぎらつく夏の太陽が柔らかく感じられるようになる。
かりそめながらも、此処は彼らにとって、祖国の空の下であるに違いない。
  
 
誰も突撃命令を下せないまま、包囲して1ヶ月余。
ルチアらが砦に入り数刻して、正門の跳ね上げ渡橋が濠に架かる。
自決した者たちの首級めあてに、騎馬が我先と殺到していく。
そして、それを交わすように、歩行者用の右翼通用口から、
ルチアとコロナが帰還を果たす。
背中には、自治領旗に包まれたローマイアーの亡骸を背負って。
 
「ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
  
出迎えたのは、彼女たちを砦内に手引きした包囲騎士団の指揮官だった。
落涙のうちに、彼は遺体を引き取る。1ヶ月の篭城、ローマイアーの戦いは、
それ以前から始まっていたのかも知れない。
女性ひとりの手で運ばれてきたのも頷けるほど、軽くなった同胞を抱えながら、
彼ははっきりと、ルチアを介したローマイアーの言葉を聞いた。
 
「さあ、帰ろう。俺たちには、メシの食える場所があるじゃないか!」
   
  • 2020.06.27 Saturday
  • 00:00

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