Calender

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

Categories

Archives

Recent Entries

反逆の騎士【短編】

鉄のメイド騎士団TQ14/急降下強襲型重騎兵κατάφρακτος

 

TQ配達品=急降下強襲型重騎兵κατάφρακτος×2領
TQ配達先=城下鉄獅子騎士団屯所⇒グラム盗賊砦強襲突破
 

急降下強襲型重騎兵κατάφρακτος

 
鉄メ騎士団(※2名)は今日の配達差配を確認するべく、
いつものサンドラ私邸でなく、城下にある鉄獅子騎士団屯所を訪れていた。
30代に手が届こうかという見た目の士官が、彼女たちを招き入れ案内する。
朝っぱらから、コロナは饒舌だった。相手は小隊長というから、
籍を置いていれば、同じ階級の同僚といったところかも知れない。
  
「旦那、いねーのか。お通い婚で励んでるワケだな♡結構、結構♡
 だから最近、エルのやつも欠勤が多いんだ」
  
「騎士団には将軍の狂信的な信奉者もいますから、くれぐれも私以外の前で、
 そんな口、利かないでくださいよ」
 
「ぎゃははっ、生ける軍神様みてーだな。
 ひょっとして奥方にも、ファンクラブっぽい何かあるの?」
  
小隊長は答えない。騎士団ゴシップの連座を断ち切るには、
他に方法がなかったのだろう。代わりに、先程から気になっていた問題について、
コロナに耳打ちするように問うてきた。
 
「あのですね、どうして今日のルチアさん、空気なんですかね」
 
いつも通り、ルチアはそこにいたが、屯所に着いてから会話した記憶がない。
朝に弱いタイプでもなし、彼女を気にかけている間も、小隊長は話を続ける。
 
「極々たまに、騎士団内で話題になるんですよ。奥方の次くらいに。
 戦争が終わって少なくとも10年は、戦場で傷つくコトもなくなったワケで、
 騎士団に居続けるのは生活安泰そのものじゃないですか。
 平和になってから離籍していくってのが、どうにも不思議でならんのです」
 
ルチアのみならず、コロナにも向けられている疑問だった。
ある意味、二人は一蓮托生。
 
「オレは自分の器を知ってるからな。
 ルチアがいなけりゃ、戦場を生き残れなかった。
 あいつが抜けるなら、ついていくしかなかろう。借りもあったしな」
  
やがて二人は、コの字に構えた屯所中庭に連れて行かれた。
中央にある繋留柵では、馬房の世話役と思しき平服の男が、
ガチガチな重装備に固められた軍馬を1頭、甲斐甲斐しく付き添っている。
小隊長は彼らを目指しながら、重ねて要請事項を説明していく。
  
「このほど、グラム鉱山街から発行されるブルースタンプが、
 銀兌換券だとバレちゃいましたよね」
 
「全然、俺らのせいじゃないけどな」
 
これについては本当なので、コロナは悪びれる様子が一切ない。
 
「まあ、それ自体は問題ありません。スタンプは逐次回収されるものですし、
 前回持ち帰った30万シートで、領内流通あと10年は持ち堪えるそうですから。
 面倒なのは、ゴミ屑同然だと思い込んでた独自発行券が貨幣相当だと知って、
 城下−グラム街道に居座る野盗連中が、街に運ばれる食料品や生活必需品まで、
 手を出してくるようになったことです」
 
「うわ、うぜぇ。貿易機構の輸出入品に関係ないラインにちょっかい出すのは、
 ふつーに国家権力行使事案だろが。おたくら、何やってんの?」
 
「いや、何かですね、あっちは内戦帝政下の正規地権者だと主張していてですね。
 搾取した物資は通行料だとして、裁判も辞さない剣幕で突っかかってきて」
 
「うーわ、鉄獅子騎士団に過度な妄想抱いてたみたいだ。軽く幻滅したわ」
 
「無茶ゆわんといて下さい。自由資本主義では手順は踏まなきゃならんのです。
 まあ、こちらも黙って係争するわけじゃありません。
 近日、グラム街道で小規模な騎馬突撃演習やらかすことになりましてね。
 王立地理院の登記簿には野盗窟の記載なんて存在しないので、
 演習時に巻き込んじゃっても、まったく問題ないとの見解を得ましてですね」
 
「野盗連中も鉄獅子騎士団も、ごろつき理論だわ。見直したわ」
 
「恐れ入ります。騎馬突撃やらかすのは、おたくら二人ですけどね」
 
何・だ・と・お?
 
「戦力的には2騎突撃で問題ないはずです。ただ、目的は野盗討伐ではないので、
 過剰防衛は回避して下さい。そして、今次演習のために貸与されるのが───」
  
中庭の世話男の元へ辿り着いた小隊長は、仰々しく黒鹿毛の軍馬を紹介する。
急降下強襲型重騎兵カタフラクト。先の王都攻防戦にて鉄獅子騎士団を切り裂いた、
自由市民解放戦線がもたらした特殊兵装である。
もちろん、あれから10年の歳月を経ているため、軍馬と装備の改良は進んでいる。
高温燃焼で更に純度を増した鉄素材は軽量化され、冶金技術の進化は、
鉄の使用量を抑えつつ、形状加工により防御力を高めるのに成功した。
 
「馬体の前方装備に特化させることで、軽量化ならびに馬の耐久力をも向上させ、
 騎手を女性専用にすれば、さらに50kg相当の減量に挑めるのです」
 
「いや、女性騎手のところだけ、具体的な数値を出さなくていいから」
  
続いて軍馬使用の際の簡単な説明に入る。従来種よりスタミナ特化に優れ、
肩高も低くなっているため、小型馬の印象を受ける。
馬力が増したうえに馬甲着装面積が減るのだから、意図的な改良だろう。
 
「うっは♡脚がぶっというえに、前脚のほうがさらに太い!変態だ!」
 
コロナ狂喜。
  
「従来種が丘の上に築城された時代の名残りですからね。
 急峻な勾配を上から下へ殲滅するのに都合がよい馬体に近づくわけです。
 騎乗技術にほとんど違いはありませんが、一点だけ、
 180度の方向転換は馬なりに迂回旋回させていたと思いますが、
 こちらは狭路市街地での運用も想定されているため、
 その場足踏み(ピアッフェ)から0m移動で旋回が可能です」
 
小隊長は騎乗すると、リズミカルな駆け足をその場で披露しつつ、
ぐるりと旋回させていく。コロナ、さらに狂喜。
 
「変態だ♡紛うことなき、変態だ♡」
 
あとは馬甲と騎手鎧の着脱講習。馬は女性1人で問題ないほどパーツが軽い。
旧来の馬上鎧と形式ほぼ同じなことから、コロナを着せ替え人形に、
小隊長が着せて脱がせて終わり。ルチアは終始、空気だった。
 
 
そして翌日、本番。小高い丘の上からグラム野盗砦を見下ろしながら、
二人はフィンケで別途輸送してきた装甲を軍馬に着けていく。
自分たち用の装甲は、まずルチアがコロナに。続いて、コロナがルチアに。
胴体部はもとより、着装してしまえば、兜部位も単独では脱げない仕様。
チークピースの空気孔が大きく突出して、飛矢が刺さり難い形状になっているが、
そのぶん、バイザーを上げ下げしたときの視野は著しく狭くなる。
  
「なるほどね。背高が低いと、鎧着装後の騎乗が便利だわ」
  
フルアーマー・コロナが馬に跨り、得意げに手綱を捌いていると、
依然、無言のままだったルチアが何の合図もなく、眼下の砦へと馬を走らせた。
 
「えっ?ちょっ…おいっ!」
  
鉄獅子騎士団戦略本部における段取りでは、まずルチアが主騎突撃となり、
コロナは左やや後方から、主騎の手綱方向を露払いで掩護することになっていた。
出だし、置いていかれるワケにはいかない。必死に後を追う。
 
(追いつけねぇっ!降り勾配の騎乗感覚が、想像以上に斜め向いてるしっ!
 これ以上、スピード出していいものか判断つかねぇ!つかスリルありすぎっ!)
 
野盗砦の歩哨が降下突撃の2騎を確認し、かまびすしい合図とともに、
10数人の野盗どもが砦上から直接、繋留している馬に飛び乗って、対応してくる。
いま、先鋒を走るルチアが接敵。相手2騎を敢なく弾き飛ばした。
急降下突撃による重い一撃は、武器を合わせても堪えきれるものではない。
後鋒のコロナも左からの強襲を2騎撃破。
いっぽう、ルチアは馬防柵を設けられた通路口でなく、
板張りの砦壁をぶち破って強硬突破。
 
「ひええーっ、額と両膝についた三点衝角の威力、パねえっ!
 つか俺も、ついていくしかないのか?アレに(心底、嫌そう)」
  
砦を抜かれた野盗たちは、軽騎兵ゆえに左右から追いすがり、
中央へ旋曲しながら第2波攻撃を浴びせてくる。
後方から直線的に追尾してくる騎馬と合わせて、三方向同時アタック。
左右をルチア、後方をコロナがケアするしかない。
 
「うおいっ!第2波受けには先後交替で左右入れ替えする手筈だったが、
 まっ、捲くれねえっ!このまま後ろを叩くしかねーのかあっ!」
 
ルチアは狂奔状態で棹武器ぶん回し、左右から迫りくる騎馬をこじ開ける。
コロナも後塵を左右にぶれながら、追撃する集団を寄せつけない。
何か、これ、邪眼発動と違う気がする。連携に割り込めない。
ただのバーサク。それでも、降りかかる火の粉は払うしかない。
第2波が止むと、もう追ってくる野盗らの姿は見えなかった。
グラム鉱山街の石壁は間近。カタフラクトの継走能力も限界を迎えている。
やがてルチアの騎乗した馬が足を止め、ほぼ落馬に等しい状態で、
地面にもんどり打つ。何が起こったのか飲み込めていないコロナが、
間もなく到着して、ルチアの近くに降り立った。
 
「おいっ!てめえ、いい加減にしろ!いくら雑魚野盗の群れつっても、
 連携なしに、いつ狩られる側になるか、わかんねーんだぞ!」
  
激怒するコロナだったが、横臥したままの彼女には、声が届いていないようだ。
自分では外せないヘルメットの止め具、首のあたりを両手で探りながら、
地面をごろごろと転げまわる。言葉にならない、喚き声が痛々しい。
コロナはバイザーをあげ、ルチアに馬乗りになると、止め具を解除して、
彼女のヘルメットを脱がせてやった。
 
「お、おいっ…ちょっ!」
  
涙と鼻水でどろどろに崩れた顔が露わになり、直後、コロナを力ずくで払いのけ、
四つ足で這いずりながら、できるだけ遠くに逃れようとする。
獣じみた唸りまでまとっている。何これ?何これ?
そして力尽きると同時に、嘔吐(えず)いて胃液を撒き散らす。
口腔から、鼻腔から。
  
「ルチア、お前…まさか!」
  
何かに思い当たった様子で、コロナは出来る限り無理強いでなく、
ルチアの鎧を脱がせてやる。胸部位を、腕とグローブを、次に腰部位を。
発汗量が半端ない。すでに嗚咽はなく、返事もなく、落ちるように眠りにつく。
  
 
翌日、鉄獅子騎士団屯所にロレンティウス将軍から呼ばれたコロナが、単身、
謁見室に対峙していた。報告を受けた将軍は、俄かに言葉を継げない。
 
「戦争でもらった心的外傷───
 あいつの場合、鎧をまとうコトで異常な発汗、呼吸困難、判断能力の欠如。
 あのザマで邪眼なんざ操れるわけがない。
 ルチアは騎士団に残らなかったンじゃねえ。残れなかったんだ!」
  
続いて、コロナは将軍に相方の交替、ラファエラの差配を要請するものの、
にべも無く拒絶される。
  
「兵装面の改良は、出来る限りやり直させる。1週間だ。
 1週間のうちに、お前らも現状を克服しろ。
 飯を食らうために、手当たり次第しがみついてでも、やるんだよ!」
   
ロレンティウス将軍、鬼。
最悪、ルチア抜きで次の仕事を請けられるのか。
考えあぐねるコロナの自我の中、深い暗海の底へ溺れかけている。
そんな感覚を味わっていた。
   
  • 2020.06.20 Saturday
  • 00:00

Comment
Send Comment