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反逆の騎士【小説版】

導かれし黒蝶1-2














第292系統ヒルデスハイム家章

ミンネゼンガー
「奏でるもの」

 

Ein Ritter 1-2
「導かれし黒蝶編−導かれし黒蝶−」

 
買い出しのために市場を訪れたルチアは果物屋の店先に陣取り、
右手でスカートの裾をもてあそんでいた。
左手は視線の外側で、林檎を無造作に買い物カゴへ放り込んでいる。
 
「全部で12gpだね。ダメだよ?色気もないのに、そんなコトしちゃ。」
 
「ちぇ.. 城勤めで食いもんに困らないから、鈍っちまったかな?」
 
食材を盗み損ねたルチアの前で、ふと放物線を描くものがあった。
林檎に、洋梨に、葡萄に、マンゴー..
最後は小粋なジョングルールの一礼で演し物が締めくくられる。
 
「お望みの品がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ。」
 
子供時代から市場を荒らした姉貴格のセシリア(愛称セス)。
「奏でるもの」 ヒルデスハイム家を後見にする見習い騎士である。
 
「スイカを出せ!メロンを出せ!カボチャでも可。
 貴様の寒い胸元へ隠すには、さぞかし屈辱だろうけどな?」
 
およそ年にひとりの割合で、

芸人はご覧のようなタチの悪い客に遭遇するものだ。
 
「お互い、チチの話は終わりにしようや.. なあ?兄弟!」
 
「ああ.. 俺たちゃ、仲間だ」
 
ルチアとセシリアが互いのチチを称え合う黒い友情の前で、

果物屋のおやじはふと、我に返る。
手品に利用された果物は、みんな店の商品じゃないか。
市場を追い出されたふたりは、駆け出した先の酒場で落ち着いた。
 
「遣いの駄賃を誤魔化して、何を企んでたんだよ?」
 
「もうすぐ、カタリナ姉の誕生日だから.. 」
 
「カタリナさぁ.. 死んじまったってよ.. 」
 
「何の冗談?セスって昔から他人の嫌がるコトしか言わないよね。
 セスって、あたしのコト好きだったりするの?」
 
「ありえねーだろ?そんな可能性。」
 
真面目に話を聞こうとしないルチアに、

セシリアは凄みを利かせた声で会話を続けた。
 
「あたしの話を聞け。そしたら死ぬのはカタリナまでだ。
 聞かねーなら、お前の殿さんも、

 ロンや他のガキども、みんな転がるぜ?」
 
騎士見習いとなった現在でも、

セシリアは非合法な闇ギルドとのつながりを保っていた。
辺りが黄昏に包まれる頃には黒蝶の城へと走ったルチア。
そしてテーブルにひとり残るセシリアの元へ、

酒場の主が一杯のエールを置く。
 
「うちも納める所に納めてるからな。

 しばらくは商売になりそうもないから、店じまいだよ。
 お前さんは、仕事なんだろう?」
 
他に客のいない店内は閑散としていて、

主はセシリアと差し向かいに腰を下ろした。
 
「ああ、この町を通過する騎馬隊を、

 暗殺でもなんでもいいからとめろとサ..
 ただの騎馬じゃねえ、王都の将軍様だ。」
 
「セスは見習いなんだろう?」
 
予想を上回る大仕事の内容に、店主の声が裏返る。
 
「騎士方面の話じゃねーんだよ。商人ギルドの筋だ。」
 
宮廷に14席ある救世騎士の椅子が2つ同時に失われた。
ミュンスターの系統を分け合う、カタリナの戦死とエラスムスの失踪。
北位上将軍レオンハルトの一派が、

黒蝶城へ急行しているらしき情報を掴んでいた。
 
「家章返還を求めた伝令じゃないのか?」
 
「表向きはね.. だけど敵対派閥である南位上将軍ディオンの懐刀が、

 戦地からの帰還を始めている以上は、交渉する時間がない。

 おそらく黒蝶では血が流れる!
 そもそも、将軍失踪の情報が普通に伝わってりゃ、

 黒蝶のガキどもみんな逃げられたんだ!
 なぜ情報開示が遅れたと思う?

 金に汚い商人どもが抱えた在庫を捌くために、
 売り相場を下げない時間稼ぎだ。
 そのうえ損得勘定が終わったら商人よりのディオンを援護するため、
 ロレンティウスを討てとぬかしやがった!
 正規騎士ではマズイから、俺のようなチンピラを使ってな!」
 
醜い豚は際限なく太る。
満たされたカップの酒面が、怒りに波立つ。
 
「俺たちゃ、使い捨ての特攻じゃねーんだ..

 こんなところでくたばってたまるか!」
 
その頃、黒蝶城では領主ゲオルグの床を囲んで、

縁者はもとより使用人までが一堂に会していた。
早馬を走らせた騎士見習い"百合花"のファイトによって、
宮廷騎士団の肉迫はすでに伝わっていた。
 
「指揮するのは見習い騎士ラファエラ。

 家章の返還要請かと思われますが、

 王宮への出撃許可を得ないまま馬を駆った騎馬が一騎、

 目撃されています。」
 
ケーニッヒ・デア・ティーレ 「孤高の獅子王」

 
猛将軍ロレンティウスの名が、

見習い騎士ファイトの口から告げられる。
誰もがこの城が戦場になることを覚悟し、凍りついた。
 
「王都の将軍が単騎出撃だと?狩れ、狩ってしまえ!」
 
「自分に出来ない事をサクっと言わないでください.. 」
 
いきり立つテスラの傍らで、ファイトは憎々しげに吐き捨てた。
 
「"蝶"の家章は私がお預かりし、

 "百合花"のミュンスターへお届けしましょう。」
 
臥せるゲオルグにファイトが申し出る。
 
「君は、戦場の経験が?」
 
ゲオルグは言いよどんだ。鎧の着装を見れば、一目瞭然だった。
途切れた言葉をつなぐように、テスラが後を継ぐ。
 
「家章の継承は予定通り、甥子のセラフィンだよ。

 お前たちが身命を賭して、包囲を抜ければよいだけの事だ。」

ゲオルグは目を閉じ、静かに蝶系ミュンスターの後継を口にした。
誰もが固唾を飲み、領主を見守るなかで寝室のドアが開き、

ルチアが遅れて顔をのぞかせる。
 
「我がミュンスターを、ルチアに託そうと思う。」
 
激震が走る。

正当な相続権を持つ"百合花"の一族にとっては尚更だった。
手前勝手な言い分を喚き散らす縁者たちのなかを、ルチアが進み出る。
 
「王都の将軍御一行をかわすまでの、囮になりゃいいんだろ?」
 
一方で、歯噛みする小太りの男テスラにはコロナが耳打ちをした。
 
「領主の言い分は真っ当だと思うぜ?
 救世騎士に必要な大アルカナの啓示..

 あいつは見習いだけど、過去に誰ひとりとして到達していない、

 【死神】の覚醒に憑かれている。
 窃盗、売春、恐喝、野良犬以下の生き方をしてきた俺達のなかで、
 あいつだけが人を殺している..
 やり切れないけど、戦場を抜ける資質はルチアにしかないと思う。」
 
領主ゲオルグと二人きりに残された部屋で、

ルチアは厳かに蝶のミュンスターを継いだ。
 
「大アルカナの誓約は、私の【愚者】の剣に.. 」
 
ルチアはゲオルグの言葉を一蹴する。
 
「いまさら綺麗事なんか望まないよ。

 私は自分の【死神】の剣に誓う。」
 
そしてゲオルグの次の句を制し、ルチアは剣を持つ手に力を込める。
 
「包囲を抜けたあかつきには、家章をセラフィン坊やに。」
 
その年、最も粗末な騎士の叙任式が、

蝋燭の灯火とともに終わりを告げた。
 

  • 2012.11.03 Saturday
  • 00:00

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