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TMSの軌跡【野球小説】

グッバイロード西海岸4-10

JUGEMテーマ:自作小説

いい加減、股間の話やめよーぜ
    

グッバイロード西海岸4-10

   
涼見翔輔2打席目。
マウンドのヤン・グラッドストン投手は外にはずれるカーブからの組み立て。
2球目は内角足元にワンバウンドするボール2-0-0。
  
(打者の足を動かしてきやがった。うぜぇ…)
  
そして外角ギリギリいっぱいのムービング・スライダー系統、翔輔の読み通り。
足元を撹乱された仕返しにセーフティ三塁線…のはずだったが、予定より内過ぎ。
マウンドを駆け下りてきたヤンが、すでに打球を握っている。
翔輔はヘッドでなく1塁を駆け抜けたが、塁審が迷う隙もないアウトコール。
  
「かあぁ!頭に血が上って前打席の経験値サラにしやがった。
 クセ球は思い通りの場所へ転がらないと、あれほど目にしてきたつーのに、
 鳥か!?あいつは!」西井監督
   
佐織基広の2巡目左打席。全球見逃し2-1-1からの内角に滑り込んでくるボールを、
涼見とは逆の1塁方向へセーフティ。
 
(1、2番でアピールするのは悪くないんだよね。
 ファウル狙いで1カウント潰すくらいのつもりで…)
  
スライダー軌道の内角膝元ムービングを一度はファウルゾーンに落としたものの、
打球はスライス回転でフェアゾーンに食い込んでいく。
  
(そうなるか…天邪鬼なやつめ!)
  
バントダッシュからギアチェンジ、トップスピードに繋げる佐織。
フィールディングは投手と一塁手がチャージしてくる。
これもヤン投手が一塁手ウィンパーを制してフォアシングルで捕球、
そのままグラブから持ち替えず、ダイビングしながらのバックトスを試みるも、
ボールがウェブに引っ掛かり浮き上がってしまう。
ベースカバーした二塁手エステソが大きく弧を描いた送球をもぎ取ったのは、
佐織が一塁を駆け抜けた後だった。記録は内野安打。
   
「さおりん(佐織)に伝達、盗塁自重。
 麻生の仕事が終わるまで、守備隊形を変えさせないほうがいい」
   
西井監督の言葉を側近の志羽がフラッシュで送る。
打者走者など複数人に攻撃手段を伝達するブロックサインと異なり、
個人への意思表示は1シグナルで済ませるフラッシュが多用される。
  
「佐織、OK?」
  
「おっけ」
  
これを一塁サイドコーチと核心をぼかしたやり取りで相互確認。
リード幅は牽制球の頻度を減らすため、通常より一歩ほど小さめで。
UCLAは内野重殺シフト中間守備、外野定位置。
打席は3番、麻生充。すでにベンチからのノーサインを伝えてある。
  
「さあ、麻生の回答編といこうか」西井監督
  
ムービング2つでストライク&ボールを分けたあと、1塁牽制。
走者チェックというより、アクセント。そして1-1-1,らの3球目。
第1打席でウイニングショットに使ったスプリットでカウント調整にくる。
コースは外角ギリギリいっぱい。
前回と同じスライダー軌道なら、見逃せばベース上で外れるかも知れない。
だが彼の特性から、正体不明2巡目の決め球を待つわけにいかなかった。
  
「迎え撃ちにいきやがった」涼見
  
「前傾姿勢で腰との連動がぶった切られてる。
 あれだとフォロースルー使えないだろ」中路
  
味方ベンチの酷評をよそに、外角高めのボール球を前めに捉えた麻生は、
掘り返した軸足に荷重をかけ、さらに前寄りに体重移動していく。
  
「なるほど、"おっつけ"か!
 あれはトスやティー打撃で培えるものじゃない。
 より実戦に近いシートやフリー打撃でなければ練られないし、
 全体練習で個人配分を割くには限界がある。麻生ならではだな」志羽コーチ
  
インパクトしてから押し出すように力を伝えられた打球は、2塁手後方、
右中間真ん中に落ちていた。
弾き返す、撃ち返すというより、持っていく、運んでいくという表現が合う。
打球処理は中堅F.ウェイスマンが回り込んで、フェンス到達前に捕球。
 
「ストップ!ストップだ、佐織!」3塁コーチ
   
1塁走者だった佐織は、3塁キャンバスを回りかけたところで左手をついて減速。
打者走者の麻生も2塁に達し、
中堅からの返球は8-2間を中継していた1塁手G.ウィンパーがカットした。
日本ユニカレ選抜は1死2、3塁で、4番打者本郷昌太郎を迎える。
  
「いや、いまの2塁に返ってたら超絶微妙だったろ」涼見
  
先ほどの走者1塁、右中間二塁打におけるカバーリング状況は、
遊撃手A.バルマンが打者走者の3塁進塁を防ぐため、8or9-5間の中継位置。
二塁手L.エステソは8or9-2間の中継と2塁ベースカバーを視野に入れたあと、
中堅手が浅めで押さえたのを確認し2塁カバーに移動。
投手は本塁後方のカバーリング。
最終的に返球をもぎ取った一塁手G.ウィンパーは8-2間のカットマンである。
  
「結果的に、さおりん(佐織)のフェイクが功を奏した感じ?
 遊撃手は彼の2、3塁間走があからさまに膨らんでいるのを見て、
 四つ(本塁返球)指示を叫んでいたと思う」韋駄天・権田
  
UCLAは捕手A.コーエンがマウンドで二言三言の会話をしてプレー再開。
そして直後、内角高めの布石球を一振りした昌太郎に球場のボルテージが沸く。
打球は右翼外野の場外ネット中段に突き刺さる弾丸ファウル。
※大学施設なので、ほとんど場外ネット。
昌太郎本人は外まで飛ばす気満々だったため不満そう。
  
「まあ確信犯だろ。あんな前で叩いちゃ、フェアゾーンに飛ばねーよ」涼見
  
「前で捉えたぶん、打球コースはあれだが、角度ほぼイメージ通りだろ。
 要は相手バッテリーとの勘繰り合いじゃねーか」西井監督
  
そして今度は、外にはずしてきたツーシーム系を昌太郎は合わせにいく。
理想的な形でインパクトしたものの、そこからの振り抜きが、
左打者特有の1塁方向へ流れるような上体移動で体軸とは反対側へ撃ち返す。
打球は三塁手頭上、T.トラーゴのジャンプが届くはずもなく、
左翼線をカットするように転々とする。
佐織が、麻生が相次いで生還し2-0の先制点を掴んだ。
2〜4番までの長短3連打である。打者走者の昌太郎は2塁に達していた。
  
「かあーっ、麻生も昌太郎もつまんねー野球しやがって!」
  
日本ベンチ内で選手が一斉に飛び上がり、
ハイタッチからお茶壺道中を繰り広げた矢先の、西井監督によるボヤキである。
隣にいた志羽コーチが苦笑しつつ、西井に意図を尋ねる。
  
「だあって、あんなのクリンナップの打撃じゃないじゃん。
 チア部のおねーちゃんだって、誰も股開いてないじゃん」西井監督
  
「いい加減、股間の話やめよーぜ」中路
  
「アウェーなんだから、チア部はしょーがねーだろ」涼見
  
チア談義とは別の部分で、西井監督は小さく溜め息をつく。
   
「たまにプロ野球でもフェンス越えしたコトねーようなのが4番に座るじゃん。
 4番に送りバントさせた球団もあったよな。
 初めてとか、極稀に見るぶんには面白いんだよ。
 だけどFTT(※For the Team)とか言ってよぉ、
 何処も彼処も同じ野球やったら気色悪いじゃん。
 繋ぐ野球がダメつってンじゃなくて、そーゆーコトよ」
   
西井城太郎らしい、年寄りだから言える御意見だった。
だが、彼の愛弟子である志羽にとってしても、
いまの打席における麻生や昌太郎の気持ちが、充分過ぎるほどに理解できる。
昌太郎の前に座った麻生の責任感、そして麻生に託された昌太郎の責任。
とりわけ親善試合とはいえ、全戦連敗で臨んだ4試合目である。
是が非でも先取点を奪いたかったに違いない。
  
「俺が昌太郎を拾ってきたばかりの頃はよぉ、
 周りの好敵手を蹴散らす重戦車みたいな雰囲気あったんだよな。
 そいつを手塩にかけた麻生と引き合わせられるとなったとき、
 年甲斐もなくゾクゾクしたんだよなー。
 それを麻生のやつ、あっさり4番譲りやがってよクソが!
 殴り合いじゃなく話し合いだぜ?
 いまの日本の若者って、みんなそんな感じかよ?クソが!」西井監督
 
(クソ、クソ言い過ぎや。クソジジイ)輝子
  
「ふと、思っちまうんだよなぁ。
 後ろに石田がいたら、昌太郎はあんな打撃をしただろうか。
 マイケルや安里が試合をブチ壊したら、
 麻生は最後までお行儀よくいられるだろうか…なんつってな」西井監督
  
志羽はふと、西井が気まぐれに書き込んだオーダー表を思い出す。
確かに、あのメンバーでFTTなんてやったら、感極まって涙するかも知れない。
ギャップ萌えとでもいうのだろうか。
そんな思索をするうち、西井は最後に、こう漏らすように言葉を継いだ。
  
「夢だったんだがなぁ…
 麻生と昌太郎は、一緒にいないほうが幸せなのかもな」
  
いつもの他愛ない愚痴とも受け取れる。志羽は微かに意識を向けかけるのだが、
やがてベンチに生還してきた佐織と麻生の喧騒の輪に惹かれていく。
彼が西井監督の言葉を思い返すのは、そう遠くない未来の話である。
  
試合は1死走者2塁に昌太郎を残し、5番伊達の右飛で3進。
四球を挟んで2死1、3塁と攻め立てたが後続を断たれる。
その後、4回裏UCLAの攻撃から5回表裏の攻防まで、
それぞれ走者1人ずつを出しながらも得点に結びつかず膠着。
6回表日本ユニカレ選抜の攻撃は、3番の麻生から。
そしてUCLAは先発のヤン・グラッドストンが5回までで降板し、
2番手、学外招待選手がマウンドを引き継ぐ。
  
 OUT J.グラッドストン P ⇒ IN D.スペンサー P
  
また、バッテリー交代につき、
 
打順8番 OUT A.コーエン CA ⇒ IN B.ジェフリー CA
  
ダン・スペンサー投手、右投右打。
PC(※Pacific Coast)リーグのサクラメントRC(※River Cats)所属。
マイナーリーグ最高峰のAAA(トリプルエー)契約選手。21歳。
自分の身長より高く跳ね上がる左足がチャーミングなオーバースロー。
得意球および最高球速ひ・み・ちゅ。
つか招待選手の情報が志羽コーチの耳に入らなかったため、データ不足。
  
「ふーん、左あんよ(※足)を振り上げたあと素早く折りたたんで、
 かなり高い地点からリリースするんだな」涼見
  
「むしろ走者を背負ってから、どうフォームが変わるのか興味あるね」佐織
  
「典型的な縦系統投手だ。フォークかスプリットあるぞ」志羽コーチ
   
走り屋と球投げ屋、それぞれの視点でスペンサー投手の投球練習に見守り、
そして、スコアブックの名前記入を終えた輝子が何気ない興味を示した。
  
「ダン…スペンサーゆうのんか?
 どことなく、見憶えのある顔しとるな」
  
ベンチ内の視線が輝子に集る。
初めての渡米、およそ日本で報道されないだろうマイナー契約選手に対して、
彼女の言葉が意外だったのは確かだろう。
    
  • 2019.02.09 Saturday
  • 00:00

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