Calender

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

Categories

Archives

Recent Entries

万葉恋綴【小説】

万葉恋綴(まんようこいうた)下巻2-7

 

允恭帝紀
 

万葉恋綴・下巻

2-7
 
春秋大祭の奉納舞では、近江びとの女たちが輝きを放ったのは否めないが、
大和に近習する男女の舞も、ある種神秘的で、周囲の視線を集めた。
香草香木を焚き、仮面により人格をトランスさせるという、
原始シャーマニズム的な憑依の表現手法を用いる。
盛んに地面を踏み鳴らす両脚の脛部には、
少しばかり地を這う程度の領布(ひれ)がのたうち..
あれは、水の中を意図するものか。
他方、しなやかに周囲をうかがう舞手が大地を蹴る。
歌もなく、囃子もなく、無音で舞う様は、
まるで獣の狩りを彷彿させた。
 
狗舞と呼ばれる、九州隼人の習俗がある。
かつては朝鮮半島に勢力を構えた山上民族が、自然災害から邑を追われ、
やがて九州地方に土着したのち大和朝廷に降った。
「狗(いぬ)」は2面性を持つ。
中華思想から蛮夷戎荻としての獣性を示すものと、
山上他界信仰における絶対強者、すなわち「神」を示すものである。
少なくとも、大陸から離れた日本列島の視点からは、
「狗(いぬ)」とは、畏怖の対象と見做されていた。
古代日本を支配するために、山幸彦と海幸彦の親族合一は、
至極当然の成り行きだったと言えるだろう。
 
"舟くらべ"に負けず劣らず、民衆を沸かせた大祭の華に"剣舞"がある。
神武東征以来の大和朝廷が持つ武威を、舞に集約して納めるものであるが、
しばしば軍事を司る豪族たちのあいだで、技の応酬が始まる。
尤も、実際に剣を打ち合うのは豪族たちに仕えた公私の奴婢だった。
だが、ここでも大和びとの技が冴える。
 
「参った.. わ、私の負けだ!」
 
沸き返る民衆たちの中心で、壮年の河内びとが剣を落とされている。
敗者の眼前で剣を返し、仮面を持ち上げた大和びとは、
まだ青白い肌色をした、あどけない少年に過ぎなかった。
彼ら大和びとと戦った者たちは、みな口々に、
痩身矮躯から繰り出される圧倒的な膂力をまくし立てる。
 
「実際に剣を合わせてみれば解る.. 
 あれは、獣が宿っているとしか思えない!」
 
この当時の剣術には、2通りの扱いに大別されていた。
豪族の出自にも深く関わるであろうが、河内びとや近江びとの操る剣には、
大陸人特有の長い手足を利用して、かなりの遠間合いから、
鋭利な突きが防御を掻いくぐってきた。
一撃必殺の威力は望めないが、戦場にあっては敵により多くの傷を与え、
より多くの血を流させることが相手の平常心を崩壊させる。
翻って、大和びとの剣は間合いを重視し、最も効率的な一撃を、
ある空間の一点に絞って解放する防御的色彩が強かった。
"狗舞"を思い出していただきたい。
領布(ひれ)を払い、音もなく地を叩く独特の踊りは、
足捌きと運足を伝承する狗隼人の知恵である。
呼吸は吸うよりも吐き方を重んじ、剣を撃つときは必ず、
両の足裏を大地に張りつかせた。
大和に生まれた子弟たちは、"狗舞"を受け継ぐことで、
精強な戦人に成長するのである。
 
古伝に云う。
かつて近江には、大和に仇なす邪を討ち滅ぼすべき、
千振りの鉄剣が鍛えられた。
大和には、千振りの鉄剣を打ち振るうべき、千人の戦人があった。
此れを神人合一し、「布都之御魂(ふつのみたま)」と称す。
海上には五畿七道の整備より遥かに先んじて、
対馬海峡から瀬戸内海水運を支配する河内勢力も、
大和朝廷の大量輸送に寄与していた。
 
彼らが天(アメ)の皇(スメラミコト)を支え続けることで、
大和(ヤマト)は、永劫の繁栄を謳歌するのである。
 
  • 2017.02.04 Saturday
  • 00:00

Comment
Send Comment