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反逆の騎士【小説版】

反逆の騎士 序章


 第17系統
 "蝶"のミュンスター家章

 シュメッターリンク
 「導かれし黒蝶」

 

Ein Ritter Prologue
反逆の騎士 王宮序曲

 
王宮が主催する晩餐会。
それは古来より、戦地に赴く騎士団の騎馬揃えを王侯貴族たちへ示した、

儀式の名残でもあった。
 
しかし、この夜の宴はいつもと様相を違えていた。
ひとつは、年に一度の騎士叙任を控える貴族子弟の顔見せを兼ねていたこと。
もうひとつは、空位になっていた東位将軍職を受勲するため、

戦場より帰還した「猛騎将」 ロレンティウスの、

褒賞授与式が執り行われたことである。
 
納得いかないのは、この日を心待ちにしていた、

貴族子弟のひよっこたちだった。
初めての登城、きらびやかな楽奏、親より年上の葡萄酒、ほとばしる肉汁..
指折り数えた宮廷デビューは、王宮警備の体験入隊へと強制変更されてしまう。
金持ちの子供は宮廷内を、後見人頼みの貧乏人は生垣の外。
 
「寒いわ、腹減るわ、やってらんねー」
 
警備などそっちのけで茂みの中に座り込み、愚痴をこぼすのは
「奏でるもの」 ヒルデスハイム後見のセシリア(愛称セス)。
 
差し向かいに胡座をかいて付き合う二人のメイドは、
「導かれし黒蝶」 蝶系ミュンスター家のルチア(愛称ルゥ)と、

コロナ(愛称ロン)。
 
ひとり真面目に舗道脇を佇むのは、
「ハチ鳥の羽根」 ムールナゥ家のラファエラ(愛称エル)。
 
彼女たち4人それぞれが警備の任に当たっていた。
 
「ちょっとアンタたちふたり、どうしてメイド服なのよ?」
 
委員長属性のラファエラがミュンスターのふたりを難じると、
 
「他によそ行きの服持ってねんだから、勘弁しろよ」

 
「とりあえず、城の中を歩いても違和感ねーだろ?」
 
ルチアが、続けざまにコロナが、

恥じらいも見せず悪びれる姿にラファエラは頭を抱えた。
そうするうち、何かに気付いたコロナが、ルチアへそっと耳打ちする。
 
「そうだよ!城ん中歩いても違和感がないんだよ」
 
各界名士を招いての盛大なる立食パーティ。
次々と運ばれてくるオードブルに、来賓は舌鼓を打つ。
ひとりのメイドがパイ生地で包んだ "牛肉のポワレ" 、

20人前をテーブルに置くと、すぐ後ろを歩いてきた別のメイドが、

大皿ごと何処かへ持っていってしまった。
侍従がひとり、不思議そうに首を傾げたが、

恙無く時間は流れていった。
 
ワインソムリエがメイドに貴腐葡萄酒を預けて、

地下セラーへ潜ってしまった。
空になったグラスを掲げて微笑む紳士があったが、
そんなの見なかったことにして、彼女は紳士の視界から消えていった。
 
「ぎゃあっははははっ」
「宴会だーっ!」
 
「きゃああっ!信じられない。何やってんのよ?アンタたち」
 
宮廷内で饗されていた料理をくすねた似非メイドを、

ラファエラは叱責する。
 
「鼻つまみ者同士、恵んでやるから一緒に食おうぜ?エル!」

 
「誰が恵むんだって?」
 
藪の中の小宴に遅れてきたセシリアは、軽鎧の下から酒盃、銀食器、
ナプキンに包んだめいぱいの菓子類を、これでもかと取り出して見せた。
芸術を庇護するヒルデスハイム家は、吟遊詩人ギルドの援助もしている。
 
「大道芸人が見物客を足止めしている隙に、

 仕事をやっちゃう盗賊ギルドは盟友関係だからな。

 擬態しなけりゃ食いもんもギレねーお前らとは、

 根本的に腕が違うんじゃね?」
 
「お、お姉たまーっ!」
「お、お姉たまーっ!」
 
すっかりセシリアに懐いたルチア&コロナがつまみ食いするのを尻目に、
コロナはひとり、舗道に立ち続けた。
 
「私には仰せつかった警備の任務がある。

 初日からサボリ癖をつける訳には..  ふん!」
 
授与式も閉会し、賓客が家路につくと、
警備の見習い騎士たちも帰り支度を始める。
そんな中でラファエラだけが、

宮廷付きの伝言役から居残りを告げられた。
 
「将軍様直々の付き人要請だよ。」
 
「ロレンティウス様の?」
 
伝言役の言葉を聞いたラファエラが目を輝かせる。
 
「つまりアレだ.. エルの、処女喪失記念日だな。」
「行って来い!行って貫通されて来いっ!」
「バァカ!姦通だろ?」
 
3人娘の冷やかしを物ともせず、

ラファエラは新しく仕えるべき主人の別邸を仰ぎ見た。
 
「夢にまで見た騎士団拝命、しかもロレンティウス将軍直属といえば、
 あの 【鉄獅子騎士団】 じゃないの!

 このチャンスは、絶対に逃すもんか!」
 
その後、将軍の私室へ通されたラファエラは遠慮がちに尋ねる。
 
「あの、どうして私なんかを選んでくださったのでしょうか?」
 
ロレンティウスの答えは明快だった。
 
「授与式が終わると、後見人たちが鬱陶しいほど群がってきて、

 付き添い人を勧めてきた。
 執事も彼らを黙らせるため早急に選ぶべきだという。
 宮廷を抜け出して中庭の見習いを見渡してみれば、

 立っていたのはお前だけだったという理由だ」
 
「真面目に生きていて良かったぁ・・・」
 
心の中で思いっきり拳を握り締めたラファエラ。
 
「言っておくが、俺は手荒い性質だ。

 他に尋ねたいことがあるなら聞いておくといい。」
 
(夜のお世話・・)
 
セシリアたちの冷やかす言葉が頭に浮かぶと、

ラファエラは身体を強張らせ、
頬を赤らめつつ、消え入りそうな声を振りしぼった。
 
「あの、将軍様はどういった女性がお好みなのでしょうか?」
 
「はぁ!?」
 
もらったばかりの儀礼用の短剣を光らせ、

ロレンティウスはラファエラを睨みつけた。
  
「申し訳ありませんっ!御用がおありでしたら、

 いつでもお呼びたてくださいっ!失礼しますっ!」
 
これ以上無いほどの勘違い。
ラファエラは耳の先まで真っ赤に染めて、その場を退出した。
 
「セスの馬鹿っ!ルゥのオタンコナスっ!ロンのエロ婆ぁっ!
 死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ.. 」
 
私室にひとり残るロレンティウスは短剣を持つ手に力を込め、
次なる戦場へ思いを馳せた。
 
(前将軍エラスムス逃亡の報が王宮に伝わり次第、

 後見のミュンスター一党を叩く!)
 
そして、見習い騎士ラファエラに関する成績資料をざっと繰りつつ、
思いのほか生真面目さが印象に残った記憶をなぞる。
 
(黒蝶城攻略戦までに、少しは使えるよう鍛えなきゃならんか.. )
 
その夜、将軍邸に寝室をあてがわれたラファエラは、
いつ呼び出されるかわからない緊張に一睡もしないまま、

鶏の朝鳴きを聞いたという。

 
  • 2012.11.01 Thursday
  • 00:00

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